ザメラの慟哭
奴が現れたのは、10年前とちょうど同じ時間だった。
『怪獣バグラ、街に上陸しました! 次々と建物を破壊しています。周辺住民はシェルターに避難を――』
高角月美は自分のラボから中継を見ていた。映し出される街の惨状が、20年前の記憶と重なる。彼女の祖父の乗った戦車は、あの怪獣の脚で潰された。
母は科学者だった。怪獣に有効なウィルスを開発していた。10年前、実用化されたそれを防衛隊員の父が撃ち込んだ。しかし薬は効かず、怪獣の尾が父のヘリを墜とした。
祖父も、父も、母もバグラに殺された。でも終わりじゃない。今度は、私の番だ。
『待ってください。地面が揺れて……なにか……あ――』
そこで声は途切れた。上から巨大なナニカが降ってきて、アナウンサーを押し潰したのだ。カメラが落下物を捉えていた。それは前脚であった。
更にカメラが上にパンしていき、脚の主を映し出す……ビルよりも太くて長い脚に、鱗のような皮膚。やがて映し出された口は、無数の歯が剥き出しになっていた。そう、まるでそれは、足の生えた鮫のようであった。
間もなく現場中継が終わった。しかし、第二の怪獣の雄姿を見れただけで月美は満足した。あれこそ月美が生み出した怪獣、ザメラなのだ。10年前の痕跡から採取した怪獣の血。復元した細胞は急速成長し、新たな生命となった。
月美はモニタ電源を落とし、ヘッドギアを装着する。暗闇の中に、蜘蛛の巣状に視界が広がった。周囲には破壊された都市群。中心にバグラ。まさに今、ザメラが見ている景色そのものだ。
「視界リンク、クリア。続いて思考リンク開始」
意識を繋げて、彼女はザメラを操作する。代わりに破壊衝動が流れてくるが、問題はない。むしろ心地よい感情だった。
ザメラ。私のザメラ。すべて壊してしまえ。憎きバグラも。両親を失敗者と罵ったやつらも。なにもかもすべて。
月美の怒りに同調し、ザメラが咆哮をあげた。
【続く】
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