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ゼロからえびせんをつくる

 先日、調理実習の授業がありました。女性陣に私の料理男子っぷりを見せつけて黄色い歓声をあげさせて、「今度、私の家で一緒にお料理しない?」なんて誘われちゃって、そのまま家にお呼ばれして、「あれ、お家の方は?」「いま、ふたりとも旅行中なの」……なんて展開になるわけもなく淡々と実習を終えたのですが、料理がクソまずい。泣きたい。やばい。食材のままの方が絶対に美味しい。人という生き物が火を手に入れなければ起きなかった悲劇がそこで起きていました。僕のとなりに座っていた友人は、その料理を一口食べて、「舌をレイプされた。舌をレイプされた」とボソボソ繰り返していました。かなり怖かった。



 特にまずかったのが副菜の膾だったのですが、見た目は黒ずんでいて、味は雑巾みたいな感じでした。しかし、我々の班はいいほうで、我々の机の右隣の班では、何かおぞましい物が生成されていました。それは黒いもので、クラスメイトから「ダークマター」と呼ばれていて、僕にはそれがかつて食材だったとは思えなかったのですが、やはり炭水化物でできていたらしいです。

 

 その班にいた僕の友人はダークマターを食って、「ガキの頃、ウンコ味のカレーとカレー味のウンコどっちを食うか、って話したろ。俺はいま、ウンコ味ってものが初めてわかった」と話していました。その食レポに妙に熱が入っていたので、将来彼にはスカトロプレイ男優にでもなってほしいものです。



 そのダークマターを見ていて、僕はあるものを思い出しました。2年ほど前、僕はダークマターを生成したことがあるのです。全てのきっかけは、えびせんを食べたいと思ったことでした。


 僕はえびせんが好きです。おせんべの形になっているのが一般的なえびせんだろうが、僕はエビ味のスナック全般が好きです。リンゴとりんご味の飴が別々であるように、エビとえびせんは別物だが、それぞれの良さがある。さて、それらえびせんに使われているエビは、当然海に棲息しているエビを加工したものです。しかし、何もエビが棲んでいるのは海の中だけではない。


 私は自転車を漕ぎ一路多摩川を目指しました。ついに狂ったかと思われるかもしれないですが、僕の中には明確なえびせん生成ビジョンが生まれていたのです。ジョブズにプレゼンしたらガチギレされそうな、ビジョンといえるかも怪しいものですが、計画はこうです。



 多摩川には、ヌカエビやシナヌマエビなどの淡水エビが棲息している。網なんかで岸をガサガサやると取れる取れる。アホみたいに取れる。このまま揚げたらかき揚げにできるだろうな、ってレベルで取れる。



 そいつらをなんとかして、えびせんにしたいと思ったのです。僕は友人を引き連れて河川敷に到着しました。僕は焚き火台の用意を始めたのですが、いざ焚き火台が組み上がるとライターが見つからない。ついでに友人もいない。周囲を探してみると友人がかがんでいます。彼はライターで虫を焼いて遊んでいました。将来がとても心配です。


 で、僕は友人に命じてエビを採ってこさせました。川に網をいれると入る入る。エビがワシャワシャしてます。藻とかが絡まってるところからエビだけを取り出して僕は水を入れた紙皿にエビを入れていきました。20匹くらい入ったところで試しにエビを茹でてみます。僕は鍋を忘れたので紙皿に水を入れて火にかけました。こうしても紙は燃えません。紙の発火点が100℃より高いからです。


 紙皿を熱し始めると共に真っ赤になっていくエビ。寄生虫を殺すため20分じっくり茹でます。茹で上がったのをまず友人に食わせた僕はクズです。友人は「川の味がする」と言っていました。多分ウンコ味よりはマシでしょう。しかしこれでは全くえびせんになっていない。


 そこで、茹で上がったエビをアルミホイルにくるんで、焚き火に放り込んでみます。もうヤケクソです。エビが焦げて本当に焼けた糞みたいになる前にアルミホイルを取り出しました。そして出来上がったのが一番上に貼っつけた写真のエビです。ほとんど殻でしたがほのかにえびせんの味がしました。成功です。僕は0からえびせんを作ることができてとても嬉しかった。偉大な勝利だ。



 ただ、エビの色々尖ってる部分が舌に刺さって痛かったです。舌をレイプされるよりはましか。

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