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聖玻璃彷徨

烙印ならまだしもよいのだ
俺はこの一枚の畳を背負って歩かねばならぬ
しめりの透った重いやつをだ
俺の動きを決定するやつをだ
俺は大きな目標となって
乞食のまなこで歩いてゆくのだ
あのキャバレーの綿菓子の狂騒
インチキ仁義とサクラ・カルタと
手垢で汚れた麻雀牌の
ほうり出された捨風の場末を
バラックと屋台の乱杙歯らんくいばの間を
肉に疼いた歩道を踏みつけ
背負った畳にさげすみを収めて
ゆたゆた廃墟へ分け入ってゆくのだ
原子砂漠に落ちる夕陽は
人間の血のあえぎになわれた
赤い毛糸を巻き取って沈むと
ああ あの西方はたしかであるのか
背負った畳を聖玻璃はりの窓にと
俺はどこまでさすらえばよいのか

     詩集『浮燈台』(1951年*書肆ユリイカ)
     詩集『海がわたしをつつむ時』(1971年*鳳鳴出版)

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