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昨日の歌は今日の歌

駄馬にゆられて
その垣を悲しげにめぐるな
矢来の竹の菱形の窓から
白い広場の見世物を覗くな
すべて垣の内の花々が
われわれの為に咲いた日があったか
今日が不当のしおきなら
明日はていのよい仇討ちであろう
白洲の上に散るしぶきの
血の濡れの度に
日が 曇る
清らの多くの目が曇る
だからといって駄馬に揺られて
その垣のまわりを悲しげにめぐるな
めぐるのはかちで
一とめぐりでよい
すすむのがかちで一すじであるように
めぐるのはみんなで一とめぐりでよい
めぐれば
おのづと部落への道だ
畑と 田圃と 森と 丘と
花と果実のふるさとの貌だ
そこに照る日が今日も翳り
川のあちらに
山のむこうに
遠雷が鳴るのを耳にとめたら
こぶしはおのづと固められる筈だ
瞳ははげしく燃える筈だ
そうしてひとびとのきまり言葉で
一しづくの涙を尊いというなら
涙は無駄に流すまいぞ
雨と白洲を流す日までを
清めの塩は蓄えておこうぞ
    
   【注】「かち」は漢字で「徒」となり「徒歩、歩行」を意味します。                              詩誌『駱駝』29号(1953年11月)
      戦後詩人全集Ⅳ(1954年*書肆ユリイカ)

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戦後詩人全集Ⅳに掲載にあたって、改行、1行分削除、2行分を1行にまとめるなど改訂をしています。上記はユリイカ版です。

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