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vol.7 「治す」ことの諸相【2】ーー高齢者病棟ではたらく理学療法士の場合

前回は、がんの化学療法を専門とする医師の佐々木の語りから、「治る」ことの諸相についての考察をした。今回は、高齢者病棟で働く理学療法士の加藤の経験から「治る」ことの意味について読み解いてみたい。

半分が寝たきりの病院

まず、加藤の話を聞いて気づくのは、先回の医師と佐々木との職場環境の差だ。佐々木は、がん専門病棟ではたらいており、やってくる患者は他病院からの紹介がほとんどであった。

ひるがえって、加藤の職場の近くには大病院がある。急性期や重症の患者はそちらに運ばれるため、こちらに来るのは、脱水症状を起こしたり、転倒をしたりと老化による症状が原因の患者がほとんどだ。また、家族が患者の帰宅を望んでいるかというとそうでもなく、家での介護を減らすため、できれば病院にいてほしいと考えていることも珍しくない。さらに一方、経営状態があまりよくない加藤の病院は、長く入院をさせていたほうが採算的に助かる現状があり、病院にいさせたい家族の要望にある程度応えられてしまう。すなわち患者の長期入院について、家族の要望と病院の経営状態がマッチし、ある意味ウィンウィンの関係が成立しているのだ(1)。

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