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天神ー名古屋ー神楽坂

宮野さんにできるだけ長く書く時間を手渡すこと、私が先に死なないこと。

のちに『急に具合が悪くなる』と名付けられる書簡のやり取りが中盤に入った頃、ここだけは果たそうと心に決めていたことだった。

元気な人間が「死なないこと」を意識するなんて変な話だけど、この書簡の最悪のシナリオは、私が先に死んで、宮野さんが残されることで、なぜかそれだけ絶対にあってはならないと思ってた。といっても、気をつけることといったら、車にひかれないようにするといった些細なことなんだけど。

そして時間について。

そもそもこの書簡は2ヶ月しか交わされていない。だから「長い時間」といっても1日とか、2日とかそういう次元。でもその1日が、いや、もはや数時間ですら、とにかく貴重だった。

書簡の後半になると、それまでは1日寝かせてから返信をくれた宮野さんが、書き上がった返信を間を置かずに投げてくるようになった。それが何を意味しているのか、私にはよくわかった。

これまで経験したことのない「長い」時間がそこにはあった。

天神ー名古屋ー神楽坂

すでに終了した、天神の書店「本のあるところajiro」での刊行記念、名古屋丸善本店での哲学カフェ、そして明日(24日)開催となる神楽坂モノガタリでの刊行記念は、この書簡が始まるきっかけとなったラインだった。

なぜなら、「ダイエット×恋ー承認欲求をめぐる救済と陥穽」と名付けたトークショーを4月20日にajiroで開かれた直後、7月(名古屋)ー8月(神楽坂)と関連イベントが決定したことが、「本を作ろう」と私たちが話した理由だったからである。

でも実際一緒にできたのは、4月のajiroだけ。7月は私だけが参加し、8月は6月の時点で宮野さんの体調を考え中止になっていた。

だからこそ「急に具合が悪くなる」、「出逢いのあわい」、「ダイエット幻想」が出版された後、天神ー名古屋ー神楽坂のラインをつないだイベントを何としてでも開催したかった。

天神と名古屋は、それぞれの地域の人たちの温かい協力と、ご来場くださった皆さんのおかげで、盛況のうちに無事終了になっている。

そしてラストは明日の神楽坂モノガタリ。聞き手は、シューレをずっと見続けてきてくれた、水野梓さん。

3巻本が出てからいろんな人に「大丈夫?」と声をかけてもらうんだけど、正直、たくさんの時間を手渡すことと、先に死なないことを心に決めたあたりから、「大丈夫」というのが、自分にとってどういう感じだったのか、もはやわからなくなっている。

もしかすると今私がすごく調子がいいのかもしれないし、もしかしたらすごく悪いのかもしれない。つまり明日の私はそんな感じで話をするということだ。

天神、名古屋はどちらかというと宮野さんとつながりの深い土地だったけど、明日は私とつながりのあった人たちが多く来場してくれる。今度は、その人たちに向けて、今の私の状態のまま、私たちが残したかった、私の拒食・過食をめぐる研究の区切りとしてのメッセージを伝えてみたい。

8月半ばから続けてきたこのマガジンですが、本はすでに出版され、著者の手をどんどん離れているので、あとは読者にみなさんに委ねたいという願いも込め、このマガジンは10でいったん終わりとします。




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