見出し画像

品川 力 氏宛書簡 その二十九

力さん―僕は君が嬉しさうにしてゐるのをみると耐らなく
喜ばしいのです。君の新らしい未來ある生活を祝福し乍ら、
晩秋の伊豆の蜜柑畑の日ざしをありがたく浴びたのです。
力さん―世間とほどよく妥協し乍ら、世間を超越し給へ。
陽子さん―僕のすきな茅ヶ崎の月草の原は、いちめんの、すす
きでした。―淋しかりしわれらの恋は高原の銀にひかれる薄なるべ
し―野瀬の㐧一歌集は、ほんたうにいいうたばかりです。
僕は四十八枚の、愚痴をかいて痩せてしまった。哀れみ給へ。
十一月八日、春夫さんを訪ねます。それまでに、羽織を一枚お願ひに上
ります。正午ちょっと過ぎ位に、向ふへつくやうに行きたいのです。おゆるしでたら、お迎へに行きます。春夫さんに会ったら、あなたはきっと、もっともっといい詩ばかりかけますよ。―雲―は、へんでせう。來月までつづきます。半ごろと、終りは、僕のいちばんうまくかけたところです。僕としてはですよ。



[消印]14.11.3  (大正14年)
[宛先]芝区 神谷町 九 光明寺 境内
     品川 力 様


 14-11-2   菊池 与志夫


                       (日本近代文学館 蔵)




#品川力 #越後タイムス #大正時代 #エンタイア #エンタイヤ  
#書簡 #日本近代文学館 #佐藤春夫 #野瀬市郎 #品川陽子
#品川約百 #茅ヶ崎

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?