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雜 信

    ×   菊 池 與 志 夫

△中村樣――僕は今、こつになつた父

と一しょに、秋色しうしょくにみちきつた、父

の生れ故郷に歸つてゐます。田はう

そ寒く見江る程、淋しく刈り取られ

てゐます。もの靜かな凋落の大氣の

中に、ひたりきつて、ポツネンと田

舎家に座つてゐますと、ひとりでに

泪が出ます。人生は何といふ淋しい

空虚さだらうと、今更にしみ/″\感

じます。それはセンテイメンタルで

はありません。宇宙の永劫さに思ひ

比べて、人間のけし粒ほどの、生命

をあはれむ、どうすることも出來な

い、淋しさ、悲しさの感情です。

  (山口縣防府にて、十五日)


(越後タイムス 大正十一年十一月十九日 第五百七十二號 四面より)


#越後タイムス #大正時代 #山口県 #防府 #中村葉月


ソフィアセンター 柏崎市立図書館 所蔵


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