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品川 力 氏宛書簡 その三十一

 ツトムさん―あなたから消息がないのが淋しい。風邪でもひいたのではあるまいか。あなたの輕妙洒脱な、まるで大杉栄氏を偲ばせる文章の
觸感に魅せられて、からといふものは、わたしは自分のかくものをことご
とく、つまらないものだと思ひだして、それ故に、デスパレートな心持を以て、ひたすら讀書三昧にふけってゐます。「小泉先生そのほか」愛讀しました。わたくしは、外國語の素養と才分なく、あなたよりそれだけ不しあはせですから、その奌あなたのお力で補っていたゞきたく思ひます。買ひたひ本をどしどし買ひ、それをうづたかくつみ上げて、靜かな書斎にこもって、讀書にふけりたい――これがいちばんありがたいのぞみです。
 又土曜日の晩でもお会ひしたいと思ひますが、どうでせうか。
                   菊 池 与 志 夫



[消印]14.12.? (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
    大勝堂
    品川 力 様


                       (日本近代文学館 蔵)


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