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品川 力 氏宛書簡 その四十二

 ツトムさん―切抜帖と、お手紙ありがたう。あなたの作品を昨夜全部讀みました。あなたはいろいろと変名してゐるので、どれがどうだか、ちっとも分らなくなって、お終ひには、堀口大学も橋本虎之介も、みな、あなたと同じやふな気になったりしたのです。訳詩も悉く好きですが、あなたの「月の出」は、いちばん好きです。散文の「貧詩人」「どもりの学校」などは僕を大へん愉快にした作品で、あなたの、個性のほとんど全面が調子たかく、あらはれてゐるのは、どっちかといへばあなたの散文だと思ひます。(思ひ出の記)の續稿を發表されることを望みます。名は品川力がいちばんいゝのに、どうして、変名されるのですか。タイムスは、僕の原稿を餘り歡迎しないやうです。僕の生活から生れるものと、柏崎へんの、江原、靑針のやうな○○な文章を喜ぶ人民とは、全く、ニュワンスが異ふからです。土曜日に又お訪ねしたいのですが、お差支へありませんか。八日には是非いらっしゃい。あなたから長いお手紙をいたゞくのに、僕はいつもハガキで失礼して申訳ありません。僕は短篇作家ですから、ながいものは、仲々かけないのです。今朝庭の樹でうぐひすがないたのです。春の気分を思ひますね
                           与志夫




[消印]不明 
[宛先]京橋区銀座尾張町
    大勝堂
    品川 力 様




                       (日本近代文学館 蔵)




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