内包する欲望

(同性愛物、友人にとある欲を抱く女性の話)


 長年交友関係のある友人の短かった髪は伸びていく。なんだかそれが少しばかり切ない気がするのは、誰か好きな人ができたんだろうかと思ってしまうからだ。髪を伸ばす理由なんてそれだけじゃないのに何故そう考えてしまうのか、自分でも不可解に思いながらも伸ばされた髪に少しだけ困ったなと思うのだ。
 人ごみの中を歩いている最中、髪をアップにしている事により露わになった彼女の首筋が気になるのだ。私が彼女に抱いているそれは邪なのか純粋なのか、友情なのかそれとも別の何かなのか。

 それは分からないけれども、分かるのはこの露わになった首筋に噛み付いてみたいという事。さりげなく犬歯を突き立てたい、そんな欲望。
 ああ、なんていう欲望なのだろう。これははたして友人に抱くべきものなのだろうか。友情に付随される独占欲の表れなのだろうか。でも私は彼女を独占したいと思う事はないはずだけど——深層心理が浮かびだしたのだろうかなんて考えてしまう。

 並んで歩いても大丈夫な場所になれば彼女の隣を歩く。何気ない話をして笑い合い、そうして目的地に向かう。いつもの事、いつもの時間、それなのにたまに浮き上がる欲。
(ああ、いけないなぁ。困ったなぁ)
 こんな気持ちを知られないように私は今日も平静を装う。たった一人にしか抱かない欲望を綺麗に上手に内包するのだ。

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