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イギリスの水はおいしくないけど、紅茶を格別においしくする。

 これまでずっとコーヒー派だった。砂糖もミルクもなし、深焙りをブラックで。それがイギリスに来てからはすっかり家でコーヒーを飲む回数が減った。なぜかと言うと紅茶がおどろくほどおいしいのだ。イギリスに引っ越してすぐ会社が借りてくれたホリデーハウスで始まった紅茶習慣。「何これ、すでに私イギリスかぶれ?」とも思ったのだけど、今まで出張で来た際に買いだめた紅茶を日本で飲んでいたのとは確実に何かが違う。

 2ヶ月の仮住まいは、海の上に引かれた線路によってできた潮溜りの人工的な湖(と言っても池に近い気がする)に面するフラットで、贅沢すぎる夢みたいな場所だった。それなのに、めちゃくちゃ寒い大きなバスルームと、慣れない硬水に早くも気分が沈んだのを覚えている。今までも海外で暮らしたことはあるしイギリスも10回以上の渡航歴があるから、全く心配していなかったのだけど、いざ住むとなると感じざるを得ない水道水の味と肌触りの違和感。決して水質が悪いわけではないのだけれど、南部の水は国内でも特に硬度が高くて沸騰させるとミネラル分が浮いてくるほど。もしかしたら、初めて自分の力を頼りに違う国に引っ越してきて、過剰に敏感になっていたのかもしれない。とにかく、こんな些細なことも夢にまで見ていたはずの場所で出くわすと、結構な不安だったわけです。

 そんな時に、この水がおいしい紅茶のカギって気づいたことは、私にとって革命的な出来事。日本でよく行っていた寿司屋の大将は「海外で食べる寿司がおいしくないのは魚や米のせいではなくて水の違いのせいなんだ」と言っていた。そうか、紅茶をこれほどおいしくさせているのは、そのまま飲むとなんとも残念なこの水なのか。イギリスで飲むイングリッシュブレイクファストティーは、渋みが舌にまとわりつく感じも、酸っぱみ(tangyな感じって日本語でなんて言うのかしら)もない。オフィスでみんながしているように、カップの上1/3をオートミルクで満たしてみたり、ハチミツをひと匙とレモンを少し絞ってみたり、どんな飲み方も格段においしくて紅茶を淹れるプロセスさえもちょっと特別になった。イギリスの水、ありがとう。

 この水と紅茶の関係で気付かされたのは、29年も生きると慣れ親しんだ味や物事と違うものを「よくないもの」とジャッジすることは簡単だってこと。歳をとるというのはこういうことなのですね。29年生きて、私はある程度色んなものの味を知ったんだ。肥えた舌は豊かな人生の証かもしれないけど、もっともっと広い世界を味わうには、肥えた舌に騙されないことも重要なのかもしれない。今となっては健康のために、毎日2リットルの水道水(フィルターにかけてるけど)を飲んでるし、肌もすっかり慣れてシャワータイムも一切不満はない。肌が乾きやすい分ボディケア習慣をはじめて、マッサージをすると眠りやすいってことにも気づいた。得した気分だぞ。

 ところで、私の愛するコーヒーの話もしておこう。実家にいた時も東京で独り暮らしをしていた時も、毎朝欠かさずハンドドリップでコーヒーを淹れて飲んでいた。おいしいとか、カフェイン必要とかそういうことではなて、朝の儀式として大切な時間だった。朝にとにかく弱い私。毎朝、オフになった身体から目覚めるのも起き上がるのも不可能に思える。これたぶんHSPあるあるってやつ。でもこれが不思議と寝ぼけながらでもコーヒータイムをしっかりやると、ホームボディを脱ぎ捨てて外の世界へ出ていきたくなるのですよ。それもあってイギリスでも、週を生き抜いて力尽きた週末は、地元のロースタリーの豆を挽いて、コーヒーを淹れる時間をとっている。日本で飲むコーヒーとやっぱり味は違うけど、地元のコミュニティと繋がれている気がするから、私をすこしハッピーにする。豆が無くなったら、またカフェまで行って(次買いたいのは決まっているのだけど)バリスタの人と一緒に選んでもらおう。

 何事も表裏一体。なんでも受け入れて、なんでも理由をつけて愛そうって構えていれば、毎日はちょっと楽しくなるんだ。

仮住まいのリビングからの景色。人生のピークだったかも。
愛すべき私のコーヒーセット in イギリス feat. 文明堂


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