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もう教科書は怖くない!!日本語教師のための初級文法・文型完全「文脈化」・「個人化」アイデアブック 川口義一著を読んで

「教科書は終わっているのに、文型の使い方が分からない」は私のオンラインレッスンを申し込んでくる学習者からもよく聞く話です。

著者はその大きな原因の一つが
「『機能』の説明や指導が不徹底だ」
ということにあるとしています。

本書でいう「文脈化」は「特定の文法・語彙項目を指導するとき、その項目が『だれが・だれに向かって・何のために』使われるものであるかを明示して指導すること」であるとし、これは、「どんな『機能』を示すためにその文法や語彙を使うのかを、具体的な人間関係と表現意図に即して明らかにすること」と考えていただいてよいと述べています。(3P)

以下、接続助詞ト・バ・タラによる「仮定・条件表現」を例にとって、「文脈化」表現をどのように指導に結びつけるのか説明されている箇所を引用します。

(4P)
「効果的に痩せたいと思っている友人にアドバイスする」という状況を考えて、
その人に=だれに向かって、
どんな人が=だれが、
どんな考えで=何のために「アドバイス与え」をするのか、
具体的な表現とともに「文脈化」して考えてみましょう。

①    ・だれが:アドバイスを求めている友人をよく知っていて、「運動不足」・「炭水化物の取り過ぎ」など、その個人の問題点がよく分かっている人が
・何のために:問題がはっきりしているのだから、やるべきことはこれだけでよいと、半ば「指示・命令」を下すように「アドバイス与え」するため
・表現:毎日ジョギングすればいいんですよ。

②    ・だれが:アドバイスを求めている友人に、一般的なアドバイスは与えられると思う人が
・何のために:相手に最終判断は委ねる形の、より柔らかい印象のアドバイスを与えるため
・表現:毎日ジョギングしたらどうですか。

③    ・だれが:アドバイスを求めている友人に、自分の成功体験をアドバイスとしてしっかり伝えたい人が
・何のために:自分の成功体験に基づいたアドバイスを、説得力のある形で与えるため
・表現:毎日ジョギングするといいですよ。

以上、「文脈化」することによって、ト・バ・タラによる「アドバイス与え」の表現のあり方の違いが示せます。この違いは、もちろんそれぞれの接続助詞の意味の違いによるものです。
(引用終了)

結論として
「『文脈化』することによって、ト・バ・タラによる『アドバイス与え』の表現のあり方の違いが示せます。この違いは、もちろんそれぞれの接続助詞の意味の違いによるものです。」
とありますが、私には
「この違いは、接続助詞の意味の違いよりは、文末の違いによる」ところが大きいように感じられます。

試しに、ト・バ・タラによる「アドバイス与え」の表現を、3つの文末表現につなげてみましょう。
①    その個人の問題点をよく分かっている人が、半ば「指示・命令」を下すように「アドバイスを与え」をする
・毎日ジョギングすればいいんですよ。
・毎日ジョギングしたらいいんですよ。
・毎日ジョギングするといいんですよ。

②    一般的なアドバイスは与えられると思う人が、相手に最終判断を委ねる形の、より柔らかい印象の「アドバイス与え」をする
・毎日ジョギングすればどうですか。
・毎日ジョギングしたらどうですか。
・毎日ジョギングするとどうですか。⇒×

③    自分の成功体験をアドバイスとしてしっかり伝えたい人が、説得力ある形で「アドバイス与え」する
・毎日ジョギングすればいいですよ。
・毎日ジョギングしたらいいですよ。
・毎日ジョギングするといいですよ。

②の「・毎日ジョギングするとどうですか。」は不自然な日本語になることが免れませんが
その他の文は特に不自然な日本語でなく、レバ・タラ・トのどの接続助詞を使っても、①②③それぞれのニュアンスの「アドバイス与え」となっているように感じられるのですが、いかがでしょうか?要は①②③それぞれの「アドバイス与え」のニュアンスは接続助詞ではなく、「文末」によって感じられるように思うのです。

4Pには
(4P)
ト・バ・タラを使った表現は、「機能シラバス」で「アドバイス与え」が行われるものとして紹介されることが多く、事実、日本語教科書のト・バ・タラの項の練習には、「アドバイス与え」の文型になっているものがよく見られます。
(引用終了)
とあります。

しかし、よく日本語文法で参照する「初級を教える人の日本語文法ハンドブック スリーエーネットワーク」のP220~227 24複文と接続詞(4)条件 の項目には ~と、~ば、~たらの説明がありますが、「アドバイス与え」に当たりそうな例文は、P223 (9)
A:どうすれば、服が安く買えますか。
B:バーゲンの時期まで待てば、安く買えますよ。
だけでした。

ヒューマンアカデミーの日本語講師養成講座の日本語文法を担当いただいたY先生のレジュメも、いつもよく参考にしていて、科目9 日本語教育文法第7回 中上級文法その3に、条件表現 「と」「ば」「たら」があります。
その中でも、「アドバイス与え」に当たりそうな例文は
レシピどおりに作れば、美味しい料理ができる(手順)
まっすぐ行ったら、駅に出ますよ(道順)
の2つぐらいでした。

ト・バ・タラが「アドバイス与え」によく使われているのか?も???です。

「みんなの日本語」「げんき」のト・バ・タラの使い方が索引でうまく引けず、私が気が付いていない点があるかもしれません。この本にざっと目を通したところでは、「個人化」には共感できるところもありそうです。いずれにしてもこの先もしっかり読んでみます。

ただ、「文脈化」についての最初の事例は、あまり得心のいくものではありませんでした。


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