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ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』観劇。正反対の境遇で育った双子の悲しき運命

4月初旬、東京国際フォーラムホールCにて観劇。

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公演ポスターに記載の通り、「同じ日に生まれ、同じ日に死んだ双子」であることがことが作品冒頭名言される。

冒頭、堀内敬子さん演じるミセス・ジョンストンが一人で舞台中央に登場し、悲痛を嘆くかのように、身体の奥底からの魂の叫びを歌い上げる。全身から放たれるエネルギーと声に、一気にストーリーに引き込まれていった。

【ストーリー】
リヴァプール郊外で双子の男子が誕生した。双子の一人であるエドワード(ウエンツ瑛士)は裕福なライオンズ夫妻(一路真輝&鈴木壮麻)に引き取られ、もう片割れのミッキー(柿澤勇人)は、実の母親ミセス・ジョンストン(堀内敬子)と兄サミー(内田朝陽)のもとで貧しくも逞しく暮らしていた。正反対の環境で育った二人はお互いが双子であることを知らないまま、7歳で出会って意気投合し義兄弟の契りを交わす。しかしミセス・ライオンズは我が子エドワードを実の母親にとり返されることを恐れ、ライオンズ一家が転居。エドワードとミッキーは今生の別れをしたはずだった。そのうちミッキーの家が取り壊しとなり、移り住んだ先は偶然エドワードの家の近く。15歳になった二人は再会し、固い友情を育むようなる。エドワードとミッキー、そして幼馴染みのリンダ(木南晴夏)は恋と希望に溢れた青春の日々を謳歌する。しばらくしてエドワードは大学に進学。ミッキーは工場に勤め、リンダの妊娠を機に結婚。大人として現実を生きはじめた二人の道は大きく分かれていった。不景気により失業したミッキーは、ついに犯罪に手を染め薬漬けに。議員となったエドワードはリンダを通してミッキーを支えるが、運命は二人を容赦しなかった…。

※以下、ネタバレ含みます(そもそもポスターの時点でネタバレだが…)

堀内さんが演じられたミセス・ジョンストンは、底抜けに明るく闊達な田舎の母ちゃんといった印象の人物。妊娠しやすい体質で、若い頃から何人もの子を身籠り出産してきた。そんな中、最後に身籠った子どもはまさかの双子。ちょうどその時彼女が家政婦として働いていたライオンズ家の奥様、一路真輝さん演じるミセス・ライオンズからは、自身は子どもを身籠ることのできない体質だから、双子のうち一人を自分にくれないかというとんでもないお願いをされてしまう。しかし、子どもが多いゆえジョンストン一家の家計が非常にひっ迫していたのもまた事実で、泣く泣く子どものうち一人 ウエンツさん演じるエドワードを手放すことに。それが悲劇の元凶になるとはつゆ知らず…。


劇中、至る場面で伊礼さん演じるナレーターが、エリザベートでいうルキーニのようにストーリーテラー兼何でも屋さんの役割で七変化しながら登場する。ストーリーテラーとして黒いスーツで登場する場面のみならず、時には牛乳屋さん、時には医者としても登場し、常にこのストーリーを各役割で見守り続けるのだ。明るい場面であっても、このストーリーテラーが突然現れたり、遠くからただ見つめるという形で姿を現すことで物語全体に常に不穏な空気がまとい、観客としては不吉な予感を植え込まれていく。誉め言葉として言うが、伊礼さんのナレーターはものすごい威圧感。要所要所で物語をしっかり引き締め、常に緊張感を抱かせる役割を果たしていた。


主人公である二人の双子のうちの一人、柿澤さん演じるミッキーは、実の母であるミセス・ジョンストンの元で兄弟とともに、貧しくも楽しく暮らしていた。柿澤さんご本人が7歳から演じてらっしゃったのは、最初はなかなかの衝撃(笑)全身ボロきれ、傷だらけ、泥まみれの出で立ちで、パワフルにやんちゃに7歳のミッキー少年を演じてらっしゃった。

当然双子であるとは知らず、ミッキーはある日7歳の年齢でエドワード少年に出会う。ウエンツさん持前の品の良さと肌の白さが裕福な坊ちゃん役に非常にはまっていて、いわゆる英国の坊ちゃん風の衣装の似合い具合も相まって、エドワードとミッキーが本当に正反対の暮らしを送ってきた様が表現されていた。

エドワードは知らない、ミッキーが話す下品な言葉や悪い遊びで二人は盛り上がり、意気投合。7歳というまだ幼い年齢ながらも、背徳感のあることに興味をそそられてしまう子どもの好奇心を、柿澤さんとウエンツさんのお二人は見事に演じられていた。互いが同じ誕生日で同じ年齢であることを知り、義兄弟の契りを交わした二人は、それぞれの親から禁止されているにも関わらずお互いがそれぞれの家の近くまで行き、親の目を盗んでは遊び、絆を深めていった。まだ7歳だから自分たちの貧富の差については深く考えることはないものの、異なる境遇の相手に興味をそそられ、本当は実の兄弟であるから無意識のうちにシンパシーを感じていたのかもしれない。一観客としては、この時は純粋だった二人の関係に単純に心が和むと同時に、常にどこかにいるストーリーテラーの存在や、物心がついてお互い色々と知識が増えた時のことを想像することで、非常に複雑な感情にさせられた。

ミッキーの友達の一人である少女 リンダを演じたのは木南晴夏さん。木南さんもリンダを7歳から演じていたが、一番違和感がなかったのは彼女かもしれない。実年齢は36歳でいらっしゃるようだが、それを全く感じさせないくらいにすごく若々しく、子どもらしく、舞台上を駆け回っていた。ミッキーに負けないくらいの活発さとやんちゃさで、気も強く、どこかミッキーの母親であるミセス・ジョンストンに似ている気も。後々、年齢を重ねたミッキーとエドワードの二人が彼女に恋をする理由が、この時点から何となく分かるような気がした。


ミッキーとエドワードが頻繁に遊んでいることを知ってしまったミセス・ライオンズは、二人を引き離すため一家で離れた土地への引っ越しを決める。子どもを持つことを切に願っていたが、一向に身籠ることができないことが彼女にとっての深いコンプレックスだったのであろう。子どもを一人くれないかとミセス・ジョンストンに懇願する時も、過保護にエドワードを育てる様も、何としてでも二人を引き離そうとすることも、全てから並々ならぬ想いが伝わった。一路さんのあの強い眼力と、経験により培われてきたであろう悲哀感漂う雰囲気が、ミセス・ライオンズのキャラクターを強調していた。


2幕からは衣装やメイクが変わり、1幕で7歳だった子どもたちは15歳に成長。中学生あたりまでは皆だいたい同じように成長を重ねるが、この年齢あたりから人生に個性が加わり、個々人の考え方なども確立されていく。ついにこの年齢になってしまったかと、双子の将来に本格的に暗雲が立ち込め始めたように感じた。

ミッキーとリンダのなかなか進まない甘酸っぱい恋模様も展開する中、ひょんなことからジョンストン一家やリンダも引っ越しをすることになる。運命のいたずらとはまさにこのこと。そこでミッキーとエドワードは再会を果たしてしまう。二人はミセス・ライオンズの画策により引き裂かれただけであったため、再会するなり以前のように行動を共にするように…。

その後、裕福な家庭で育ったエドワードは大学に進学。相変わらず貧しい暮らしのミッキーは当然大学には行けるはずもなく工場に就職し、リンダが妊娠したこともあって二人は結婚した。これまでミッキーとエドワードが生きる環境に違いはあったものの、この進学と就職・結婚が決定的な分かれ目になったように思う。

エドワードは大学の近くで暮らすためにいったん街を離れることになり、今度のクリスマスのタイミングでエドワードが街に帰ってくる時は自分が働いたお金でパーティー代を奢ると豪語し、エドワードを送り出したミッキー。数ヶ月経ってクリスマスのために帰ってきたエドワードは、早くクリスマスパーティーに行こうとミッキーに催促するが、その時ミッキーは不況により失業していた。景気のことなど関係ないお金持ちの青年と、景気に大きく左右される貧しい青年。本人たちはまだこの時、自分たちが双子の兄弟であることを知らないが、観客は知っている。当然、二人のどちらかが悪いわけではないのに、明らかな亀裂が入ってしまったことに心が痛んだ。

その後ミッキーは、不良の兄の影響も災いして犯罪に手を染めてしまい、それにより心を病み、医者から処方された薬を飲み始めたことにより薬漬けとなってしまう。その頃、大学を卒業後に議員になっていたエドワードを、ミッキーの妻であるリンダが頼り、金銭的に援助してもらうことになる。ヒモとして生きていきたいと考えている人を除き、親友とも言える同級生の同性から金銭的に援助を受けるのは、多大な屈辱であろう。エドワードとしては善意で行っていたものの、二人の価値観の大きな違いがここで露呈していた。

エドワードからの金銭的援助に耐えられず、心の病と薬のせいで正常ではなくなったミッキーが、リンダからの制止も振り払い、エドワードに銃口を突き付ける。その場に母であるミセス・ジョンストンも現れ、二人が実の兄弟であり双子であることを打ち明けてしまう。衝撃的な真実に絶句する二人であったが、ミッキーが母親に「なんで俺を手放してくれなかったんだ」と言い放つ。貧しいながらも愛情を持って育てられてきたミッキーであったが、そう言わざるを得ない状況になってしまったこと、また大切に育ててきた息子にそう言われたしまったミセス・ジョンストンがあまりにも哀れで、胸を締め付けられる思いだった。

激しく動揺したミッキーは、誤発砲によりエドワードを、次いで自分自身を撃ってしまう。「生き別れた双子が真実を知った時、破滅を呼ぶ」という迷信を1幕前半でミセス・ライオンズが言っていたことが、この瞬間脳裏をよぎる。迷信通りになってしまったのだ。


どうしたらこの最悪な悲劇を防ぐことができたのか。

ミセス・ライオンズが恐ろしい提案をしたことと、それを生計の面を鑑みてミセス・ジョンストンが許諾してしまったこと。やはりどう考えても双子の一人のみを他人に手放すということがあってはならなかった。

しかし、現代の先進国ではこんなことはまず起こり得ないだろうが、昔であれば時々ある話だったのかもしれない。お腹を痛めて生んだ我が子だから、幸せに、できることなら裕福な暮らしをさせてあげたいというのが多くの母親の願いだろう。育てられるお金が本当になく、幼くして飢え死にでもしてしまったらそれこそ罪深い。一方のミセス・ライオンズにも当然悪意などはなく、いくら頑張っても自分には手に入らない、子どもという存在を持つことに必死過ぎただけだ。

あの時、確かに二人の利害は一致していた。観客目線では、両者が同じ地域に住んでいた場合、先々双子がどこかで交わる可能性などを、お互いがもっと冷静に考えていたなら……と思わずにはいられないが、あの時の二人にはそこまで考えることができなかったのであろう。


抗えない偶然や運命はあるものの、何が、何をすることが本当の意味で相手のためになるのか、すごく考えさせられる機会となった。

主要キャストの皆様においては、非常に苦しい役どころの方が多かったように思うが、皆様の熱演に心打たれたこと、改めて感謝したい。

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