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年越し蕎麦を求めて往復6時間の旅路と記録。

「蕎麦やります」

知り合いが営むカフェのInstagramでの投稿に現れた文字。
年末の締めはこれだと思った。

お店の場所は石巻市桃生町。
ほぼ99.9%の人が車で向かう場所だ。
私もお店には車でしか伺ったことがないが、車移動では写真も撮れないし、それも飽きたので、今回は電車で向かうことにした。

お店の最寄り駅はJR気仙沼線「和渕駅」
片道1時間30分ほどの電車移動とお店までの30分ほどの徒歩移動。
と、寄り道しながら蕎麦を求めて歩いた旅路の記録。

まずは自宅から仙台駅まで移動。
東北本線・「小牛田行き」の電車に乗り換える。
ちなみに「小牛田」の読み方は知らなければ絶対に読めない地名だ。
「小石田純一」のように「こうしだ」と素直に読んではいけない。

「こごた」が正解。
であれば午前午後の午を当てて「小午田」となりそうだが、元々の小田郷から分村した「小小田」という地名が転訛した説など諸説ある。牛にまつわる地域であったことも牛の字があてがわれた理由かもしれない。

そんな小牛田駅でワンマン運転で走る気仙沼線へと乗り換える。
帰省と思われる荷物多いファミリーなどで席は埋まっていた。
途中の前谷地駅を境に気仙沼方面、石巻方面へと分岐していくのだが、そういえば震災後は仙台から石巻へと向かう仙石線が使えず、この小牛田経由の内陸側のルートで石巻方面へ行ったことを思い出した。

朝起きたときは晴天だったはずなのだが、こちらへ来ると曇天。
こんな日の写真はのっぺりとなりがちだが、それもいいかという気分に。

無人駅・和渕駅に到着。

ここからはお店まで急がず気ままに向かった。

小さな商店街とお菓子屋・定食屋など開いているお店は少しばかりでほとんどは住居が立ち並ぶ。
コンビニはここからさらに歩いて1時間ほど進まないとない。

北へと進み、旧北上川を越える。

こんなところ歩く者はおらんと言われているような、車で行き交うお爺さんたちからの視線を感じながら進む。

日差しもなく風もないが、ただ空気がひんやりと冷たくそよぐ昼。
蕎麦まではもう少し。

見渡す限りの田畑。
正直にいうと、この道のような先までずっと見通せてしまう道はぐっと気分が下がってしまう。
数百m歩いた先の景色も想像した通りの景色だからだ。
それではつまらないので右側の森を向いてみたり何かを探しながら歩く。

長い直線が終わると、多くの住居が見えてきた。

真っ直ぐな道と昔ながらのお屋敷が連なる道はやはり旧街道というか宿場町的な歴史があったのだろうと想像する。

この道を進む途中にお店がある。

くさかんむりcafeも築130年は越える歴史ある建物で、この雰囲気は作ろうと思ってもできないものがあり、何度も通う理由はそこにも一つある。
以前は正門があったが今年の地震で倒壊してしまい今はない。

過去のイベントでの様子などに他の写真等も残ってるので気になるかたはそちらからぜひ。

家を出てから3時間以上は経ったか、ようやくたどり着いた。

蕎麦のセットについてきた「桃生茶」。
このあたりの一部では茶葉も栽培している地域があり、最も北で採れる茶葉から北限の茶葉とも呼ばれている。
すっきりとした味わいの中に独特の甘みがある。
冷え切った身体にこれ以上素晴らしい一杯があるだろうか。

そして…待望の蕎麦。

写真以上に語ることは特にないが格別の一杯だった。
くさかんむりcafeの個性はどんな料理にも感じるのだけど、特にスパイスの使い方が面白くて蕎麦も今まで食べてきた蕎麦とはちょっと違う味わいになっていた。

締めの蕎麦湯。

はぁ、これで今年も納まったな。
と思ってもいいが、せっかく来たからには大好きなあのスイーツを食べずにはいられない。

キャロットケーキ。
うさぎ年にもちょっと掛かってる。
キャロットケーキはなにものだ!?と初めてここで食べたのはもう何年も前だがそれ以来年に数回は必ず食べに来ている。

お店でゆっくり過ごしていると予定していた午後一の電車には案の定間に合いそうになかった。
次の電車は3時間後。
それまでは来た道を戻りながらゆっくり歩き回ることにした。

同じ道でも進行方向が変わるだけで見え方は変わる。

反対方向で歩かないと見逃してしまうものもたくさんある。

太陽は雲に隠れたままだったが、たまに顔出す瞬間があった。

無目的に歩きながら撮っているときも何か気になった形や色など、要素を留めながらそれを探しているときがある。橋の骨組み、三角州、三角。

橋を渡り行きのときは通らなかった住宅街の方へ。
とにかく時間だけはあるので、意味もなく気のむくままに歩く。

どれだけ歩いても帰りの電車が来る時間まではまだまだ遠い。

雲も抜け、徐々に夕暮れ時になっていく傍ら、寒さがきつくなるぞという本能的な不安にも駆られる。

家々が並ぶあたりを抜ければ目の前は広大な田畑がある。
これまであまり感じてこなかった風も、周りに遮るものがなく山から吹き降りてくる風は強く、とても寒かった。

この時間帯は旧北上川のそばをただただ歩いた。
すれ違った人はみな、犬と散歩する時間だった。

いよいよ日が暮れる時間になったが、電車はまだ来ない。
さすがにもう暗いし潔く撮ることは諦め、日が暮れる前に駅へと戻り、待機所で大人しく待つことにした。

スマホをいじって何をするわけでもなく時間を待つ。
電車が遅延していることも気づかずに。
時刻になっても来ない。
5分過ぎても来ない。

目の前にいたはずなのに、スマホの画面に集中して見逃したのかと強烈な不安に襲われる。これを逃すとまた1時間この状況で待つことになるからだ。

そこでようやく遅延していることに気がつくも、とはいえ、いつ来るのか、いや、本当に来るのかさえも疑問を抱きはじめてしまうほどに。

その瞬間にトンネルの向こうから見えた灯りにどれだけ安堵したか。
年明けの書き初めは「安堵」と書こうと思ったほどこの二文字が頭上に飛び出た。

無事に乗車し、小牛田へ戻り、仙台へと戻った。

蕎麦を求めた長い散歩。
歩いたことない場所ならどこでも楽しめてしまう写真という楽しみはなんて素晴らしいのだろう。

では、さらば2022年。
2023年も変わらずよろしくお願いします。

イタリーさとう。


今回訪れた「くさかんむりcafe」も宮城に来て石巻方面に訪れる際はぜひ。


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