新しいカタチへ vol.6(Yさんと仕掛けた大勝負)

「お前 これ取りたいやろ!」
「そりゃ 取れればいいですけどねぇ・・・」
「いいですけどねぇ・・・ ちゃうやろ! 取りに行かんかい!」
「・・・」
Yさんは、いつものようにシルバーのジッポでタバコに火をつけました。

昭和63年、家具のサワキの建て替えリニューアルを機に、私は家具商社を退社して家具のサワキに入社しました。
それと同時に結婚すると言うバタバタな昭和最後の年でした。
その頃、Yさんは特注家具の開発やら新規参入営業をガンガンやっておられ、会社ではかなり尖った存在になっておられました。
商社と取引先という関係になっても、事あるごとにYさんとは連絡を取っていました。
Yさんが京都方面に来られる時は、必ずと言っていいほど当店に立ち寄って、オカンが入れる濃いめのブラックコーヒーをススりながら無駄話をして帰って行かれました。
Yさんが来てくれることがすごく嬉しかったことを覚えています。

私が店に戻ってしばらく経った時でした、大きな物件の入札に参加できることになったのです。
それは、今まで経験したことのない、身震いするぐらいの、とてつもなく大きな物件の入札でした。
これはYさんに相談するしかありません。

当たり前の話ですが・・・
入札であろうと何であろうと仕入販売というものは、仕入原価があり、そこから適正な利益を乗せて販売価格を算出します。

大阪の中央環状沿いの、ひなびた喫茶店でYさんと入札の打ち合わせ・・・

「概算でウチの仕入れでどれくらいになりそうですかね・・・?」

ブラックコーヒーをすすりながら、いつものようい鋭い目つきでYさんは言いました。
「お前なぁ こんなもん下(仕入れ値)から計算しとったら取れへんで」
「いくらで落ちるかを想定して、その下を潜った金額入れて、まず取りに行こうや」
「話はそこからや!」

「チョチョチョ・・・ちょと待ってくださいヨ・・・」
「そんなことして、仮に落札できても、仕入れ値が(落札額より)上回ったらどうするんスか?」

タバコを灰皿でもみ消したYさんは、少し不敵な笑みを浮かべながら・・・

「お前は、よそがどれくらいで入れるかを想定して計算しとけ!」
「お前が心配してるようなことになっても命はまで取られへんやろ!笑」
「まぁ そうならんように、するけどな」

そう言いながらYさんは、2本目のタバコにジッポで火をつけて、美味しそうに煙を胸いっぱいに吸い込みました。 
タバコの煙が立ち込め、Yさんの姿がぼんやり霞んで見えました。
これから起こることを暗示しているかのように、いつもにも増してタバコの煙が立ち込めていたように感じました。
でも、考えがあってのYさんの発言やと自分に言い聞かせ、Yさんを信じようとも思いました。

喫茶店での密談から数日、入札の日。

「それでは落札者を発表いたします!」
「落札者は”家具のサワキ”です。」

入札室に執行員の声が響き渡りました。
その声は、今も忘れられません。
本来なら大いに喜ぶ瞬間ですが・・・
仕入れ原価が全くわからないという、前代未聞の落札でした。
そもそもこんな大量の別注家具を短期間でどこで製作するんや・・・
ガクガクと足が震えました・・・

震える手で目の前にあった公衆電話からYさんに電話をしました。      (当時はポケベル全盛期)

「ホンマに落としてしまいましたよ・・・」
「どうするんすか・・・?」

「よっしゃ! よーやった」
「イタル パスポート持ってるか?」

「ありますけど。。。  なんなんですか・・・?」

「スグに中国 飛ぶぞ!」

「えーっ ちゅ 中国って??????」

「チャイナやチャイナ」

「明日、中国大使館へビザ取りに行くぞ」

「ちょちょちょ ちょっと 何をゆーたはるんですか????」

一週間後、私とYさんは、右も左も分からない上海国際空港到着ロビーに立っていました。

つづく


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