新しいカタチへ vol.4 (新たなる希望・・・)

「お前、ホンマにおもんなさそうやな・・・笑」
「まぁ 大学からここに来たらギャップはあるし・・・」
「ここで大卒は、俺とお前だけや」
「大卒が偉い訳やないけど・・・」
「大学で遊びやらバイトやら色々と経験してこんなとこ来たらそうなるわなぁ」
「ましてや上得意さんのご子息様やしなぁ  笑」

ハンドル片手に鋭い目つきでタバコを燻らせながら、時折、笑みを浮かべるYさん。
なんでこの人、俺のこと、こんなにわかるんやろ・・・?
それは就職して初めて自分のことをわかってもらえる人が目の前に現れた瞬間でした。

「お前が大事な取引先の息子さんかなんか知らんけど、俺の知ったこっちゃない!」
「特別扱いもせーへん!!」
「今日は俺の取引先回りや!」

「はい!よろしくお願いします。」
Yさんの発する言葉、一言一言が嬉しくて嬉しくて、遠足か何かに行くような気分になったことを覚えています。
車の中では、今の不満やら、大学時代の話やら、当時付き合っていた彼女(今の嫁)の話やら、堰を切ったようように話しました。

一件目に到着。
「えっ・・・ ここって・・・?」
「見たらわかるやろ!? 8チャンネルや」

取引先、一件目は、なんと、あの!関西テレビさん
「行くぞ!」
「あっ はい!」

基本ミーハーな私にとってテレビ局という存在は、ある意味、憧れの場所です!笑
大道具さんの倉庫やテレビで見覚えのあるセットやスタジオ・・・
もうキョロキョロ、ワクワクの連続・・・

二件目 ホテル日航大阪・・・
当時の開業したての最先端のホテルであり、憧れのホテル・・・
関テレの興奮冷めやらないまま、まさかの場所に連れて行かれた私。
ホテルのバックヤードを闊歩するYさんの後について、興奮しまくる私・・・笑

そして三件目 宝塚の高級住宅の大豪邸
「まいど〜ぉ Yです。」
大豪邸に似つかわしくない態度で臨むYさん。。。
大丈夫か・・・

「あーら Yさん どうぞどうぞ」
これぞ大豪邸の奥様という感じの方に出迎えられお家の中へ

「今日は新人、連れてますねん。」

「あら!よろしくね」

緊張の私・・・

「あなたたち、お昼は済ましたの?」
「よかったら、一緒に食べない?」
「お蕎麦しかないけど、どうかしら・・・?」

「蕎麦 ええなぁ いただきます。」とYさん

そんなやりとりをポカーンと見ていた私。
お客様のお宅で、それもこんな大豪邸で食事をご馳走してもらえる・・・?
キツネにつままれたような気分で山かけ蕎麦を食べたことを覚えてます。
またその蕎麦が店みたいに美味かったんです。

帰りの車中、相変わらすの鋭い目つきでタバコをうまそうに胸いっぱいに吸い込んでは煙を吐いているYさんに尋ねました。
「先ほどのお客様は・・・?」
「百貨店で俺が売った奥さんやで」
「昔からのお知り合いとか・・・?」
「いいや・・・」
「お昼ご飯とかご馳走になることって・・・あるんすか?」
「そやなぁ 俺はあるなぁ」
鋭い目つきでニヤリと笑みを浮かべながら2本目のタバコにジッポで火をつけるYさん。

お客さんとこんな関係になれるYさんって・・・?
感心と驚きとが入り混じってなんだかよくわからない・・・ でも、なんか、楽しい・・・
楽しい・・・ と思ったのは家具業界入ってそれが初めてだったと思います。
そして次の日から、なんとなく見える景色が変わったような、そんな気がした出来事でした。

Yさんに連れられた3件は何をするでもなく「まいどぉ Yです。」と担当者に挨拶して世間話をしただけで、今思えば、Yさんは、私を元気付けるために、わざと連れ出して、わざわざ私が喜びそうな場所へ連れて行ってくれたと思っています。
疲弊していた気持ちを一新して「新たな希望」が持てるようなそんな、忘れられない一日でした。

「おい!イタル 飲みに行くぞ!」
「はい!喜んで」

つづく

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