新しいカタチへ vol.10(Yさんとの日々)
上海でオーダーした家具は無事に税関を通過し納品を終えました。
サラッと書きましたが、それは今までに経験したことがない納品作業でした。
早朝から日が暮れるまで、のべ50人の方々に協力いただき、3日間を要しました。
「Yさん 終わりましたねぇ・・・」
「そやな! オモロかったな」
「まぁ 終わればそうですけど・・・」
「上海まで連れて行ってもろてんぞ! こんなオモロいことないぞ、オマエ!」
そう言ってYさんは、いつものようにタバコをくわえて顔を傾けてジッポで火を点けました。
何度、この光景を見てきたことか・・・笑
それから数年・・・
私は家具のサワキで仕事をする日々・・・
Yさんはドイツの家具金物を扱う会社の部長として本格的に特注家具の分野で活躍されていました。別々の会社になっても、定期的に連絡は取り合い、時には家族ぐるみで食事に行ったりと親交が続きました。
珍しく、数ヶ月、Yさんと連絡を取らない時期がありました。
仕事のことで聞きたいこともあり、久しぶりに連絡をしてみようか?
と思った矢先でした。
私のケータイにYさんからの着信の表示が・・・
「サワキです! ご無沙汰でーす!」
「イタルさん・・・・・・・・・・・・」
奥様の声でした・・・
(なんで奥さん・・・?)
でも奥様の声を聞いた瞬間、それが良い知らせではないことを感じ取りました。
「イタルさん・・・・・」
「驚かんといてね・・・」
その後に続く言葉が最悪でないことを祈りながらケータイを握りしめました。
でも、その願いは、直後に打ち破られました。
「Yがね・・・」
「亡くなったのよ・・・」
怖いほど冷静な奥様の声が今も耳に残っています。
Yさんが心臓に疾患を持っておられ過去に手術をされたことは承知していました。
でも、いつ会っても顔色も良く、そんなこともみじんにも感じさせなかったYさん
何よりまだ50代です。
「ウソや・・・・」
事務所で膝から崩れ落ちていました。
体が震えました。
涙を流していたような気がします。
その後、奥さまと何を話したのか?
よく覚えていません・・・
Yさんは東京の出張先のホテルで倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまったのです。
仕事を終えた後、東京にいる息子さんと息子さんの彼女と3人で食事をした夜にYさんは倒れました。
Yさんは、息子さんの彼女に会うのを、ことのほか楽しみにしておられたと奥様から聞きました。
せめてもの救いはYさんの息子さんが看取ったことです。
その夜、Yさんの亡骸と対面しました。
今にも起き上がってきそうなほど、いい顔でした。
「何を勝手に死んでるんすか?」
「聞きたいことあったんですけど・・・」
「これから、どないしたらええんすか?」
眠ってるようにしか見えないYさんに喋り続けました。
「お前は、もう俺がいなくても大丈夫やろ?!」
とでも言いながら、タバコを吸ってるYさんの姿が目に浮かびました。
2011年3月 Yさんは逝きました・・・
「オイ!今日一日、俺に付き合え!」
から25年目のお別れでした。
Yさんとの日々はかけがえのないものでした。
そしてYさんに出会ってなければ今の自分はないと思います。
Yさん!僕はまだもうチョイ先ですが、タバコでも吸って待っといてください。笑
つづく
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