新しいカタチへ vol.7(なぜか上海)

「なんか昔にタイムスリップしたみたいですね」

「空港と言うより駅やなこれは」

当時の上海空港のロビーは田舎の駅を思わせるような光景でした。
そして満員電車のようにウヨウヨと人が溢れていました。
Yさんの考えは、人件費が安くて、大量生産に対応できて、品質も国内と遜色ない
中国の日系家具工房で落札物件の家具を作らせようとしていたのです。

上海の滞在時間は3日間。
その間に全ての商談をまとめなければなりません。

「ところで Yさん 中国語できるんすか?」

「んなもんできるわけ、あらへんやろ!」

「どっどっどっ  どーするんすか・・・?」
ただでさえ不安な気持ちで上海に降り立った私に、輪をかけて不安な気持ちにさせた瞬間でした。

「迎えが来てるはずや!」
「来とらへんかったらヤバいけどな!」

さらに不安の波が襲ってきます・・・

「大阪D商事のYさんですね!」

日本人らしき大柄な男性が私たちに声をかけて来ました。

「ようこそ上海へ 金物屋のTです。私の事務所にご案内します。」

彼は現地で家具の金物屋を経営している日本人でした。
そして色んな工場との橋渡しをしている方でもありました。
日本語が通じる!! そして優しいものごし・・・
彼が仏様のように見えました!笑

「いいですか!タクシー降りてから徒歩でウチの事務所に行きますけど、途中、自転車とバイクが大量に走行している道を2回横断します。」
「信号もないので私から離れないようについて来てください。」

Tさんの言葉通り、自転車とバイクの壮絶な量に圧倒され、私は彼の忠告を忘れ、道の真ん中で立ち往生・・・

「Tさーーーん  すいませーーーん 助けてくださーーーい 怖いです!」

「サワキさーん そこでじっとしといてください」
もうここで死ぬんやと思いました!笑

「だから言ったでしょ!」
「いつも、到着した日に、お一人ぐらいこんな目に遭われますね!笑」
「1ヶ月も住めばコツがつかめますよ」

「そんなコツ、掴みたくないです・・・」

「めっちゃオモロいなぁ 上海!!」
Yさんは、いつもと変わらないテンションで楽しそうでした。

彼の事務所で打ち合わせをした後、車で1時間ほどの上海郊外の工場へ到着しました。
周りを見渡すと、まるで砂漠のような風景が広がっていました。
これぞ大陸という感じです。
こんなとこで家具を作ってもらったとして・・・ 
それが海を渡って、宇治まで来るのか?
想像すらできませんでした。

しかし到着した工場の門を見て、少し安堵したのです。
その門には見慣れた日本の会社のロゴマークが掲げてありました。
実名は書けませんが、見たことある上場企業の名前がそこにありました。

「この名前は、お前もさすがに知ってるやろ?」
「ちょっとは安心したやろ!」

上海に着いてから絶望と不安の淵を彷徨ってた私もYさんのその言葉に
ほんの少し、光が見えた気がしたのでした。

「中国の日系企業を当たっといたんや」
「ほんで、ココがやってくれると言ってくれたんや」
「でもまだ安心できひんで! とりあえず試作品を大急ぎで作らしたんやけど、そのクオリティ次第では青島(チンタオ)行かないあかんかもしれんしな・・・」

「ちちちち チンタオって・・・」
「それめっちゃ遠いですやん」

「そうなったら当分、日本に帰れんぞ!」
「俺、4日後に歯医者予約してんねんけどな・・・」

「そんな、のん気なことゆーてる場合ですか!!」

Yさんに上げられたり落とされたりの会話をしながら、工場へ入って行きました。
私の頭の中では井上陽水の『なぜか上海』のサビの部分が延々と流れていました・・・

   ♪海を越えたら上海
   ♪どんな未来も楽しんでおくれ・・・

つづく


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