新しいカタチへ vol.8 (同郷のよしみ・・・)
「ようこそ いらっしゃいました。」
柔和な笑顔で私たちを迎えたのは、現地法人のN社長でした。
白髪混じりで少し細身の体型で、グレーのスーツに身を包み、いかにも一流企業のできる社長という印象でした。
「サワキさん 宇治でしたよね・・・?」
「実は私、サワキさんと同じ、生まれも育ちも京都なんです。」
「自宅はサワキさんお店から車で10分ほどの城陽です。」
なんということでしょう・・・
紆余曲折あり遠路遥々、海を渡り、上海の砂漠にたどり着いたら、そこで待っていた方が、同郷の方だったとは・・・
できすぎた展開に逆に不安になる心配性の私をよそに・・・
「同郷とは 奇遇やなぁ!」
「これでもう安心やなぁ イタル」
相変わらずマイペースなYさんです。
そして私たちはYさんが事前に送ってくれていた図面を基に製作された試作品のチェックをしたのでした。
「イタル!お前の出番や!ちゃんとチェックせーよ」
一通りのチェックを行い、予想以上の出来栄えに、とりあえずは安堵した上海の初日でした。
あとは納期や価格の交渉だけという段階へと進んだのです。
その夜のN社長や金物屋のTさんを交えて、ディープな中華レストランでの食事は忘れられない味でした。
「おいイタル! ジャズクラブ行くぞ」
「明日も早いし、今日は、おとなしくしときませんか?」
「アホぉ せっかく上海来てんから オールドジャズバー行かんと、どないすんねん」
そこは上海の租界地区と言われるエリアで19世紀後半に建てられた西洋建築が建ち並んでいるレトロでおしゃれなエリアでした。
Yさんが行きたかったそのお店は、1929年創業の老舗のジャズバーでした。
そこにはセピア色の映画の世界に迷い込んだような光景が広がっていました。
「最高やなぁ イタル」
Yさんは、子供が初めて遊園地に来たような、はしゃぎ様でした。
そんなYさんを見ながら、私は変に冷静だったことを思い出します。
「Yさん 一杯飲んだら帰りますよ」
はしゃいでいる子供を諭す様に言うと・・・
珍しく、私の忠告をを素直に聞いてくれたYさんは、ワイルドターキーのロックを一杯だけ飲み干してホテルへ帰りました。
『老爵士巴 old jazz bar』 機会があれば、もう一度、ゆっくりと行ってみたいお店です。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?