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インフォーマル・グループ再考

私が人事の仕事について間もない頃、管理職研修のオブザーブなどを通じて知ったマネジメントの歴史に興味を持ち、自分でも色々と学びました。
会社組織というのものが歴史の中でどのように立ち上がり、産業革命を経て大量生産を行うようになったことでマネジメント理論として色々なものが現れ変遷してゆく様子を学ぶのは私にとってとても楽しい経験でした。

20世紀に入ってからのマネジメント理論は、フレデリック・テイラーの科学的管理法が大きく取り上げられてから人を機械のように見るようになる考え方(生産性をいかに上げてゆくか)と、人間としての側面(動機づけ理論など)の両側面が議論されながら発展してゆきました。
その中で私が強く興味を持ったのが、ホーソン実験をはじめとする社会科学的実験から出てきたインフォーマル・グループという考え方でした。

インフォーマル・グループとは

インフォーマル・グループとは、端的にいうと組織図の中には出てこない人と人との繋がりであり、ネットワークのことを指しています。

上のリンクで紹介されている記事の中では「好意的感情や関心などによって自然発生的に結びついた集団」と定義されていますね。
これはどのようにして人と人とのつながりが出てきてゆくのか、というところの説明でもあると思います。

20世紀のマネジメント理論におけるインフォーマル・グループはどちらかというと「裏組織」的な意味合いで語られることもありました。
平たくいうと、上司の言うことを聞くのではなく職場の中で影響力のある誰かが一言言っていたので「仕方ねぇ」みたくなったり、仲の良いグループ同士で協働して上司の圧力に屈しないようにしたり、みたいなことです。

私の学んだマネジメント理論では、フォーマル・グループ、つまり組織図上の上下関係や役割分担と、インフォーマル・グループが形成する人間関係や力関係とが衝突するのではなく、インフォーマル・グループの発生は必然と考えてフォーマルグループはそれとうまく付き合う、ないしは介入してゆく、味方につけることが大切だと言われてました。

昭和な組織においては、確かにインフォーマル・グループはそこかしこにみられ、例えばタバコ部屋や給湯室、飲み会での愚痴大会などがそうでした。
それを禁じることはできないですし、自然発生的にそれはできてゆくという意味では「インフォーマル・グループ、確かに!」と納得していた私でした。

インフォーマル・グループはなぜ廃れたのか?

しかし、21世紀になってからインフォーマル・グループという言葉自体はあまり聞かない言葉になって行った感が私にはあります。
これを読んでいるあなたの職場や会社ではどうでしょうか?

インフォーマル・グループは、同じ時と場所を共有している中で、正式な指揮命令系統とは異なる関係性が育まれてゆく状況だと思っているのですが、それが廃れていってるとしたらいくつかの理由がありそうです。

一つは価値観の多様化でしょう。
働く目的や意味づけは、昔ほど単一的ではなくなってきています。価値観がバラバラだと人と人とはくっ付きにくくなりますよね。
職場で何か新しいイノベーションを作り出したいと思っていたり、待遇をよりよくしてもらいたいと思っている人は、適当に仕事してればそれなりの給与もらえるしそれでいいやという人とは繋がってゆかないと思います。

そして、仕事が細分化され過ぎてしまったこともあると思います。
同じ仕事を同じ場所でやって入れば、喜びも不満も共通のものがあり、それらを話し合うことがちょっとした休憩の間にとかにあったりする。
でも、役割や仕事が違うと置かれている境遇が違っていてそれが起きなかったり、理解しようとしてもよく分からなかったりということがありそうです。
端的に言い換えれば共通点がないので感情の共有ができないのでしょう。

最後に働き方の多様性
いうまでもなく、テレワークでは時間も場所も散り散りになっていて人同士が接触すること自体が減ってしまいますし、フォーマルな組織を越えたつながりができるセレンディピティ的な出会いも生まれにくいでしょう。
100%のテレワークではないにしても、お互いが接する密度が減ってしまっていると限られた関係性の中でしか仕事をしなくなってしまうかもしれません。

弱い紐帯から育んでゆく

コロナが明けて出社を喚起するような世の中になってきている中で、各社どのように社員を出社に向けて動機づけをするのかで工夫をしていますね。

ですが、Purposeやスローガンを掲げて、会社の使命で人を職場に戻すのは限界があるのではないかと思います。
かといって、在宅ばかりで働いていると健康上、精神衛生上良くないというのも人によって違うので動機づけとしては弱いでしょう。

そこで考え直したいのがインフォーマル・グループかなと私は思います。
つまり「仕事があるから会社に行く」や「上司が来いというから会社に行く」ではなく「あの同僚がいるから、仲間がいるから会社に行きたい」となるような状態を作り出すということです。

「会社は仲良しクラブじゃないんだから」という声も出てきそうですけれど、実際には仕事以外の関係性から仕事のアイディアが出たり、気軽に相談ができることで物事が進んだりすることはよくあります。仕事に関係ないから意味がないのではなく、より広い視点や考え方を得ることに意味を見出せるわけです。

私のいる会社でも、仕事以外のつながりを会社の中に作ってゆくことで、仕事だけが理由で会社に来るわけではない状態を作り出そうとしています。
もっともそれはインフォーマル・グループというよりも社内コミュニティとしてなのですけれど、意外と効果的です。

具体的にはクラブ活動であったり、有志を集めての勉強会やイベントの開催であったりするのですけれど、それをインフォーマル、つまり非公式に見えないところでやるのではなく、会社公認で堂々とやっているというところがインフォーマル・グループとは違うところなのかなと考えています。

言い方を変えると、直接業務と関係ない繋がりに意味があることを企業側が認識し、積極的にインフォーマル・グループが持っていた効果を生み出そうとしているのです。

人と人が「会う」「社(ところ)」と書いて「会社」です。
仕事、というか業務は人と人とが会ったところで起きることの一つでしかないと私は思います。
その場で人が出会い、創発し、そこでの刺激で人が成長したり、生まれたアイディアが少し先の未来で思わぬ価値を生み出したり…

今ある業務をこなしているだけでは、それほど新しいものは出てきません。
仕事の関係性を越えて人と繋がることは、個人の、そして組織の可能性を拡げることに他ならないと私は考えます。
フォーマルだろうと、インフォーマルだろうと、ね。

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