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K-## 「ケニアでがっかりしたことはなに?」

昨晩、ケニア人の友人の誕生日会があった。

15人以上集まった。ケニアでは大皿料理をみんなでシェアするのが恒例らしい。ケニアが誇る主食のウガリから、チャパティ、豆の煮込み...とケニア料理がずらりと並ぶテーブル。日本の意地を見せつけようと、ここぞとばかりに、大量のコロッケと鳥の唐揚げを作った。もちろんすべて現地調達。おい、このファッキンテイスティーな料理作ったのは誰だ、と言われた。ちょっと照れる。

自分はゲストハウスに滞在している。アフリカの近隣諸国以外の海外からきた学生がみな滞在しているゲストハウス。国際学生寮みたいな。

「国際」学生寮なのに、ルームメイトは自分以外みんなドイツ人。家に帰るとドイツ語が飛び交っていることもしばしばで、ケニアにきたのかドイツに来たのかわからないな、と苦笑する。でも自分がいるときはみな英語で話してくれる。みんないいやつらだ。

じゃあケニア人との交流はないのか、というわけでもない。ドイツ人のフィリップは、アイマというケニアのガールフレンドがいる。フィリップもアイマも、どこで買い物するのがいいとか、いろいろ教えてくれるから、いい兄貴と姉さんみたいだ。自分は長男でずっと育ってきたから、頼れる相手が家にいると嬉しい。

アイマの友達もよくゲストハウスに来る。薬学部で歌がプロ並みにうまいトゥリーザ、ヒゲでいかついけど日本に興味津々なダンカン。などなど、みんな個性的でおもしろい。

昨晩はそんなみんなが一同に集まって、アイマのバースデーパーティーをした。ドイツ女子の彼氏もドイツ本国からなぜか遊びに来ていて、もうよくわからない。でもディス・イズ・アフリカ。これでいい。

昨日初めて会った人たちの中に、フランクリンという面白いやつがいた。JKUATの卒業生で今はナイロビで働いているらしい。ケニア人もたくさんいるけど、このフランクリンはナード(オタク)だと思う。動き方とか喋り方がひょこひょこしている。自分も理科大でナードな友達に囲まれているからわかる。どこの国でもあんまり変わらない。

でもナードな人種は質問がおもしろい。知りたいことは貪欲に聞いてくるから、どんどん掘り下げてくる。たまに考えたこともないようなことを切り込まれて、そこまで流暢でない英語でなんとか答えようとするけれど、ウッと困る。でもこういう瞬間が好きだ。脳みその普段使っていない部屋を、パッて開く感じ。思わずニヤってする。そうきたか〜って。

ゲストハウスの外のソファに腰掛けながら、ひらがな・カタカナ・漢字を用いる日本語の構造についてのレクチャーをひとしきりした後だった。

「コタロー。ケニアに来て、一番がっかりしたことはなんだい?」


異国の地にきて、楽しかったことや辛かったことはいくらでも尋ねられる。日本に帰ってからなんて、もっと聞かれるだろう。でも、ディサポインテッドなことはなんだ?と聞かれる機会は、そう数えるほどない、と思う。

そもそも、自分は何かに期待することが少ない人間だ。怒ることも少ないから優しいね、と言われることもあるけど、そんなことはない。他人に怒れる人間は、他人に期待できる人間だ、と思う。自分は他人にそんなに期待してないから、そのぶんあまりがっかりすることもない。

期待は偏見と紙一重だ。違う言葉で言い換えただけじゃないか、とすら思う。他人に期待している人と会話していると、あなたはこういう人だよね、と向こうが用意した服を着せてくる。こっちは肩幅が大きいんだから、身長だけで判断しないでほしい。

会話っていうのは、目の前の相手に服を着せる作業じゃない。相手の着ている服にどんなストーリーがあるのか、引き出していくことなんじゃないのか。これはどこで買ってね、その時の店員さんがすごく素敵で。似合ってるとこっちが感じるかどうかは別にどうでもよくて、その人がなぜその服を大切にしているか、言葉を重ねて紐解いていく。


知らない土地を旅していると、その土地と長い会話をしているような、どこかそんな気がする。あなたにはどんなストーリーがあるのですか。へぇ、それはこういうこと?そうじゃないんだね、それはおもしろいね。

何かが得られるかも、と思って旅に出る人は多いけれど、それは自分の中で期待したイメージと旅先での経験をすり合わせているだけではないのか、と思ってしまう。都道府県地図のパズルみたいに、これははまらない、これははまった、って一喜一憂しているだけで、外からは何も入ってきていない。

自分の経験というピースを、期待、という場所にはめようとするのを繰り返すのではなくて、それをユニークなものしてとらえること。別に無理に受け入れる必要はない。存在を認めるだけでいい。


海外に行くことは自分に向いている、と思う。お湯のシャワーが出なくたって、まあ死にはしないしいいか、と思うし、他人に期待していないから、道端にいる変な人とでも喋れる。つくづく便利な性格だ。

だから今のところ、ケニアを楽しんでいるんだ。買ったかぼちゃが予想外に水っぽかったこと。下痢になったこと。街中が臭いこと。期待しなくたって楽しい。むしろ期待してないから、ハプニングが楽しい。


昨日はうまく返せなかったけど、もう一度聞かれたらこう答えるかな。

「フランクリン。ウガリはもっとマズいと思ってたよ」

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