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退職

51歳にして退職をした。

以前の会社には足掛け19年在籍した。プロパンガス販売店の従業員として、ガス機器やリフォーム商材の営業や設置工事、あと毎月決まった日数でガスメーターの検針や集金を行っていた。

家族経営の小さな会社で、タイムカードもないようなところだった。基本決められたことをやっていれば、一旦社用車で外出したら自由に過ごせるとこはよかった。しかし、もちろん売り上げ目標というものがあり、俺はここ何年も達成できなくなっていた。

またライフラインを扱う仕事だけに、休日や夜に呼び出しがあり、それも基本、その地区を担当してる者が対応しなければならないのが段々苦痛になっていた。

休日でも会社から支給されていた携帯電話を片時も離すことができず、どうしても対応しなければならないときは、家族との遠出を途中で切り上げて、そのまま現場へ向かう、なんてこともあったし、映画館の上映中にかかってきた電話に出ざるを得ない時もあった。

あるときふと『このまま退職まで、こんな状態が続くのか‥』と心から暗澹とした気分になった。人に自慢できるような学歴もない、そして19年も同じ会社にいながら、たいして出世もできなかった自分が50歳を超えての転職なんて考えただけでも不安だったが、それでもどうしても辞めたくなってしまった。

一人いた直属の上司が退職していて、一番勤務年数が長いのが自分になっていたので、社長に直接退社の意を伝えることになった。有給も満足に取れてなかったので「退職前に残りの有給を全て消化したい」と話すと「今まで辞めたやつで、そんな要求してきたのはいない。一度、弁護士に相談する」と言われた。

『そんなに有給やりたくないんか、ケチ臭えな‥』と思った。揉めるようだったら、今流行りの退職代行でも使おうか、とも考えたが、その後すぐに有給未消化の分は使っていい、と言われたので止めた。ほぼ一ヶ月間、有給を貰い、そのまま退職した。

ここまで長く同じ会社で勤めたのは、俺の人生で初めてだった。とにかく飽きっぽくて、堪え性のない自分がここまで続けられたのは、家族ができたから、に他ならない。それがなければとっくの昔に辞めていただろう、と思う。

同じ類の仕事をやりたくなかったので、現在は全く畑違いの業種に転職した。前の会社での人間関係は完全に途切れてしまった。歳の離れた後輩数人とは仲良くやってた方だったので寂しい気持ちもあるが、そもそも20代の頃も何度か転職していて、一緒に仕事していた時は仲良かった人とも退職すると、しばらくは連絡は取るものの、やがて疎遠になることは何度も経験していた。そうやって時が流れて、自分の生活にまごつきながら、やがていろんなことを簡単に忘れていくことも経験済み。だから、どうってことないのだ。




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