湖嶋いてら

こじまいてら/1984年/3人息子に絡まれながらエッセイと小説を書くワーママ/クリスマ…

湖嶋いてら

こじまいてら/1984年/3人息子に絡まれながらエッセイと小説を書くワーママ/クリスマス金曜トワイライト総合大賞/全てのリアクションに感謝しています

マガジン

  • いてら堂 エッセイの棚

    湖嶋いてらの日常と思い出から成るエッセイが並んでいます。

  • #お花の定期便

  • いてら堂 小説の棚

    湖嶋いてらの感覚や妄想から成る小説が並んでいます。

  • マシュマロの棚

  • いてら堂 映画コラムの棚

    映画世界と現実世界を揺らぐコラムが並んでいます。

最近の記事

あの時、あなたに出会ったのは

地中海性気候さん、 私の決断に、お手紙を書いてくださり、ありがとうございました。拙い文章ではありますが、真っ直ぐお返事を書きたいと思いました。 地中海性気候さん、 実は、あなただけに向けて、noteを書いていたことがあります。旅の話、子供の話、私自身の話。内容は多岐にわたっていましたが、スマホの画面を叩く指先が、あなたに向けられていた時期があります。 WEB記事やブログで書き連ねても満たされず、本当に書きたいことを追求して辿り着いたnote。自分の内に潜んでいるもの、

    • 一本

       先週の #お花の定期便 を休んで、じっくり考えていた。胸の中に、一本の柱が立ったのが、見えたからだ。  三十七年間、この体で生きていると、分かって来たことがある。一度、この柱が立ってしまうと、もう切り崩せないのだ。手で触れられない柱だが、鉄骨より強固であると、私はよく知っている。  私はきっと、しばらくの間、noteを書かなくなるだろう。  公募に出そうと毎朝書いている小説は、もうすぐ十万字になろうとしている。私はこの先、外の世界にはあまり姿を見せず、水面下に深く沈み続

      • 指折り

         その人がドアを開けて部屋に入ってきた瞬間、目の前に大きな花束が現れた。瑞々しい、色彩豊かな花束だった。      以前から使っていた沈丁花の香りの香水が無くなって、別の香りを探そうと出掛けた。これといったものが無く、けれど明日から香りのない日々になることには耐えられず、一本の瓶を選んでしまった。  後悔――。駐車場に停めた車の中で手首につけてみて、早速、溜息がこぼれた。後悔が車の中に積もっていった。  私が欲しかったのはこんな香りじゃない。切り落としたばかりの瑞々しい生の花

        • 陰陽

           私の学生時代は暗かった、と思う。入り組んだ性格をしていたので――幼少の頃から人の表情や言葉の裏を読み取る癖があり、冗談をただの冗談で終わらせられなかったり、笑顔でコーティングされた真意に傷ついたりなどしていた――心から青春を謳歌した覚えがない。  この非常に独りよがりな性質は、私の日常を変形させていった。私の歩む道筋は、歪にねじ曲がった険しいトンネルのようになっていった。  よく思ったものだ。この先、60年も70年も、死ぬまで、この歪んだ暗いトンネルは続いていくのだな、人の

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        記事

          インザボトル

           いつか、洋画で観たのだと思う。私はまだ小学生だった。強烈なノスタルジーに目眩がした。それまで考えもしなかった方法は、私に衝撃を与えた。  空のボトルに手紙を入れて海へ流す“ボトルメール”。  誰かに向けていて、でも誰にも向けられていない手紙をくるくると巻き、そっとボトルに入れ、しっかりと蓋を閉める。  無責任で無力な手紙を、静かに波打つ水面に浮かべるとき、人は何かを願う気がする。  誰かが見つけてくれるように。この思いが誰かに触れられるように。誰かが共鳴してくれるように。

          インザボトル

           一日遅れの、今週の #お花の定期便 。先週はお休みしたし、今週は一日遅れ。いったいどうしたんだよと自分を嘆きたい。小説は毎日書き続けているが、それもやっとのこと。 こうなってしまったのは、私の体の大量の熱がなにか全く新しいものへと注ぎ込まれているから。  数週間前、その事実に気づき認めてから、私はよくよく観察してみることにした。  体内の水はぷつぷつと沸き立ち、湯気が噴き始めた。やがて熱湯となり、くらくらと揺れ始める。  自分の体がこれほどまでに大量の熱を生み出せることに驚

          今週の #お花の定期便 はお休みします。この一週間、憑かれたようにあることだけを考えていました。思考は纏まらないまま、けれど熱は確かにただ一点に注がれていく。もう少しだけ、この熱に蕩けてみたいのです。 ぽとりと顔を落としたガーベラを暫く眺めました。顔を落とす心境を眺めていました。

          今週の #お花の定期便 はお休みします。この一週間、憑かれたようにあることだけを考えていました。思考は纏まらないまま、けれど熱は確かにただ一点に注がれていく。もう少しだけ、この熱に蕩けてみたいのです。 ぽとりと顔を落としたガーベラを暫く眺めました。顔を落とす心境を眺めていました。

          個体

           じわじわと暑い。纏わり付く湿気が、熱を帯び始めている。  夏が来ようとしている。  一年の中でも、夏が一番好きだ。感傷的になるのを許される秋も、ゆるゆると解けていくような春も好きだけど、夏には到底及ばない。  冬に至っては、考えるのも嫌になる。雪深い東北出身ではあるが、冬だけは無理なのだ。脈拍が弱まり、心拍数が落ちていく。体は縮こまり、体液も血液も髄液も冷え切り、巡るのを諦める。  冬が来ると、あぁ自分もやっぱり動物だなと思うのだ。全身の機能が落ちていき、まさに冬眠の態勢

          一人の夜

           先週の #お花の定期便 で書いた『決意表明』。小説講座の先生の一言で目が醒め、絶え間なく挑戦すると決めた、という内容のエッセイだった。  こういうのを書くと、途端にどうでもいいことを書きたくなってしまう。今週の私は、跳ね上がった反動をしっかりと感じている。  昨夜は、夫が久々に夜勤でいなかった。子供たちが寝静まった頃、私はいそいそとクローゼットからでかい箱を取り出した。こんな夜に私がやることと言えば、こういうこと。  物音を立てないようにと息を潜めながら箱を持つ。歩き出す

          決意表明

           四月五日に始めた小説講座を続けている。この間、三度目の月謝を振り込んだ。自動的に私の口座から引き落とし、とはならないらしく、毎度ATMから振り込んでいる。  しかも、払込用紙に記入しなくてはならない。記入するのは先生の名前や口座番号、金額、私の名前、連作先など。毎回書き、ATMに挿入し、パネル操作をし、金額を投入する。この作業が毎月発生する。  小説は、数枚書いたら送っている。30字×40字の規定で数枚。これをメールに添付し送信すると、大抵その日のうちに返事が返ってくる。

          かけら

           業務に押し流されて、14時半頃社食へ行った。この時間、既にランチは終了している。ガランと広い空間に、ポツン、ポツン、と二人ほど座っていた。食券の機械はとっくに止められている。  私は電子レンジに向かった。コンビニの袋から、サラダを出して棚に置く。次に弁当を出し、こちらは電子レンジに入れる。  ブォーン、と弁当が回り出す。オレンジ色の灯りに照らされて、お遊戯会の主役のようにくるくると回るプラ容器を眺める。 「今日は遅かったんですね」  咄嗟に右斜め後方を振り返った。誰もいな

          土台

           『若気の至り』という言葉がある。  なんて無鉄砲で無責任な言葉だろうか。この言葉を好きかどうか、この概念を許すか許さないかは別にして、『若気の至り』とは、人生に欠くことのできない過程だと考えている。  『若さ』とはまるで未熟なトマトのように青い。熟していない実は、太陽をも跳ね返すほどに固く締まっている。青い実は自在に動き、恋をしたり友人と出会ったりする。そして体当たりでぶつかったり派手に転けたりする。傷ができたり潰れて変形したりする。ちょっと汁や種も出ちゃうかもしれない。し

          願い

           数年ほど前、長男とバラエティ番組を観ていたら、『元カレ』『元カノ』といったワードが画面からポンポン飛び出して来た。私の耳を擦り抜けたそのワードは、幼い息子の耳にしっかりと貼り付いたようだった。 「どういう意味なの?」と訊かれて、『元カレ』『元カノ』について簡単に説明した。  彼は、「ふぅん」と興味なさそうに一呼吸置いたが、その後、弾かれたように私の顔を見た。 「ってことは、ママにも元カレがいるの?」 ―――  毎年、ある季節になると、テレビ画面の中を視線が彷徨う。  朝

          満ちる

           トタンに蔦が絡んでいる。元は白色だったのだろうその壁は、古い釘から赤茶の錆が流れ出し、遠目にはベージュに見える。通勤時、目もくれず通り過ぎていた古い二階建て。  土曜日に休日出勤を終えた私は、真っ直ぐにその建物を目指した。  車を置く。少し歩く。遂に目的地に立つと私は見上げた。その全貌に、急な不安を覚える。いそいそとスマホを取り出した。先週から幾度と開いたページと、目の前の建物を交互に見た。ここで間違いないだろうか。怯んでドアを開けられそうにない私は、ほんの少しだけ、間違い

          心待ち

           行きつけのカフェが欲しい。  内装は木がふんだんに使われていてほしい。その木目にコーヒーの匂いが染み付いていて欲しい。外界と私を切り離す窓があってほしい。外の音が入って来ないといい。無音の景色をただ眺めたい。聴こえるのはコポコポコポ…とコーヒーを淹れる音くらい。それぐらい、ひっそりしているといい。  仕事の後に三十分寄りたい。本を読んだり、小説を書いたり、窓の外を眺めたりしたい。コーヒーの香りと、木の温もりと、柔らかい時間に浄化されたい。虚ろな目でぼーっとして、ゆったりと呼

          ノスタルジー

           何でも好き勝手に書いていいと言われれば、自ずと過去に意識が飛ぶ。現在のあれこれよりも、幼少期や学生時代に移ろいでいく。もう失われてしまったものや、二度と手にできない時間などに特別、哀愁を抱きやすい性質なのかもしれない。  私の生まれ育った場所は青森県のとある市だ。もちろん田舎だが、ライフラインを支える店――スーパーやコンビニ、ドラッグストアなど――だけでなく、生活を豊かにするような店――ライブハウスや古着屋、輸入雑貨店など――もあった。   私は小さい頃から、妄想と現実を

          ノスタルジー