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盛夏火 団地演劇Vol.4 1/2『蟹座(裏)』台本

   『蟹座(裏)』-The Underside Cancer-


シシキ--------------------------------------------------------------金内健樹
サソ子(さそこ)-------------------hocoten(劇団「地蔵中毒」/オルギア視聴覚室)
武内(たけうち)----------------------------------武内ビデオ(劇団「地蔵中毒」)
ドリ美(どりみ)--------------------------------三葉虫マーチ(劇団「地蔵中毒」)
魚山(うおやま)------------------------------------------------------新山志保

【0.待ち合わせ/Rendezvous In Front Of Supermarket】

 東京都世田谷区、小田急線祖師ヶ谷大蔵駅から商店街を北に徒歩10分、
 低所得者向けスーパー「ビッグA」正面の遊歩道にサソ子とシシキが立っている
 受付リスト(なるべくスマホとか簡素なものがよい)を手にし、来場者のチェックをする
 検温もする


【1.お見舞いに行こう!/Let's Go To The Visitation!】

 全員揃ったら

サソ子 「ねえ、こんな大勢で行って大丈夫かな?」
シシキ 「一応、何人かは誘って複数人で行くよとは伝えてあるけど・・・。返事帰ってこなかったけど」
サソ子 「迷惑になったりしないかな?」
シシキ 「でも曲がりなりにもおれの家だよ?大丈夫でしょ、大丈夫大丈夫。家主が許可します」
サソ子 「(お客さんに)・・・あー、じゃまあ家の中ではそんなに密集しすぎないようにねー間隔とか空けて・・・」
シシキ 「はい、じゃあ付いて来てくださーい」

 出発する
 けやきロードあたりをゾロゾロと通って行く

シシキ 「(サソ子に)ねえ、サソ子ちゃん武内さんになんかお見舞い品って買った?」
サソ子 「うーん、買うっていうか・・・一応用意はしたよ」
シシキ 「え、何何?あれか、手作り系?お手紙とか?」
サソ子 「(一瞬考える)まあ、近いかも」
シシキ 「え〜何だろうな〜」
サソ子 「それは、ほら(笑)後のプレゼントタイムでね」
シシキ 「お見舞い品タイムだろ(笑)なるほどね、それまでお楽しみ、ってわけだ。・・・あれ、でも確かあれだよね、渡す物とか一回消毒しなきゃなんだよね・・・」
サソ子 「あ、ねー。大変〜。でもその点私のプレゼントはその必要無いかも」
シシキ 「え!?なんだなんだ、めちゃくちゃ気になって来たぞ」
サソ子 「別にそんな面白くないよ(笑)」

 サソ子、団地を見回している

サソ子 「(あたりを見回し)うわー、ねえ、この団地結構夏に来た時よりも大分閑散としてるね・・・」
シシキ 「あぁ、俺もかなり久しぶりに来たけど、確かに前と比べて住んでる人減ってる感じだわ」
サソ子 「いつ潰れるんだっけ?」
シシキ 「たしか来年の3月いっぱい。だからもう住んでる人の大半は丁度退去の準備してるか、この年末で既に引っ越しちゃってるかだと思うけど」
サソ子 「へぇ・・・。見た感じ今でも十分廃団地だけどね・・・。・・・え(笑)これ本当に人住んでるの?もう退去完了した後だったりしない?(さらに笑)」
シシキ 「えーーー!?流石にそんな事はないと思うけど・・・。いや待てよ、完全退去って3月で合ってたよな・・・?合ってる、よね・・・?合ってた、はず、だけど・・・。てか、もし本当に潰れてたら俺の部屋にはもう誰も居ないって事になっちゃうけど、そんな事あるか?契約者の俺に一言も言わずに居なくなるような事は武内さんとはいえ流石にしないよ」
サソ子 「そうだけどさ・・・。でもどう見てももう死んでるよ?この団地・・・死人しか住んでないよ(笑)」
シシキ 「・・・バカ!・・・おい、部屋の中では絶対死んでるとか言うなよ・・・!」
サソ子 「あはは、ごめんごめん!」


【2.訪問/Lift Up】

 2号棟の前あたりに着く

シシキ 「さて・・・」
サソ子 「(301号室を見上げて)電気付いてないみたいだけど大丈夫?本当に居る?」
シシキ 「さあ・・・寝てるんだと思うけど」
サソ子 「いきなり入ってって大丈夫かなぁ。ちょっと一旦様子見に行く?」
シシキ 「そしたら・・・数人ずつにしよっか。靴脱いだりとかで玄関混むだろうし。・・・じゃ、えっと、ここまでの[3人]先に僕と一緒に行きましょうか。あ、じゃあサソ子ちゃん残りの人と待ってて。玄関すいたら合図するから。・・・えっと、みなさん、ゆっくりでいいので一緒に上がって行きましょう。あんまり足音とかうるさくなり過ぎないようにお願いします」

 シシキ、客の1/3とともに上がっていく
 階段を3階まで上がり、ドアに手をかけると鍵がかかっている

シシキ 「・・・あれ?鍵がかかってる・・・。本当に中に居るよな・・・?」

 シシキ、ドアに耳を当てながら(『天気の子』のオフィス初訪問シーン参照)、
 自分の鍵を取り出し、玄関ドアを開ける
 中に入ると部屋は薄暗く、さびれている
 右手寝室にはビニールカーテンが張ってある
 その奥にあるベッドには何者かが寝ている

シシキ 「とりあえず、中入っちゃって下さい・・・」

 シシキ、玄関に土足用マットを出し、客に靴袋を渡す
 シシキ、客たちに静かに着席するよう促す
 床に座る用のクッションも雑に渡す

シシキ 「えっと・・・とりあえず適当なとこ座ってもらって・・・ソファとか、床でもよければこれで・・・」

 あらかた案内したら

シシキ 「じゃ、ちょっと僕、後の人たち呼んで来ますね・・・!」

 シシキ、1Fのサソ子らの所へ降りていく
 サソ子と残りの客らに

シシキ 「(サソ子に)じゃあ、また、もう[3人]くらい案内して。あと・・・なんか寝てるみたいだったから起こさないように、静かに・・・」
サソ子 「え、はい」

 サソ子と客1/3ほど、3階へ上がっていく
 サソ子、シシキと同じようにいい感じで誘導し着席を促す
 シシキ、適当なところで残りの客を同じように部屋に案内する


【3.お見舞い/Visiting Friends】

 全員着席し、落ち着いたら

シシキ 「寝てるみたいだけど・・・どうする?」
サソ子 「待つー?起こしちゃう?」
シシキ 「サソ子ちゃん起こしてよ」
サソ子 「え〜(笑)いいけど・・・なんか起こしづらくない?」
シシキ 「うーん・・・俺も起こしづらいよ。・・・・・・なんだろう、武内さん前に比べてすごく小さく見えるっていうか・・・。今ここで触ったり声かけたりしたら大変なことになっちゃうような気がするっていうか・・・消えちゃったり、とか?・・・いやそんな事ないんだけどさ・・・。ってか、これ本当に武内さんだよね・・・?」
サソ子 「ははは。違う人寝てたらかなり怖いよ」
シシキ 「まあ、自然に起きるまでもうちょっとだけ待ってみようよ・・・(お客さんに)あ、全然ゆっくりして下さいね・・・一応ここぼくんちなんで」

 シシキ、自分の家の中を色々確かめて回る
 窓を開けるなどして風通しをよくしていく、暖房をつけたりする

サソ子 「というかさ、ここ武内くんに貸してるって事はシシキ君今どこに住んでるの?」
シシキ 「実家。ここからめっちゃ近いから」
サソ子 「へえ〜。というかさ、そもそもなんで友達間で家貸してるの?」
シシキ 「ほら、武内さん今ちょっとでも人と接触したらダメだっていうじゃん?」
サソ子 「あー、なんか入院した時にそんな事聞いたわ」
シシキ 「でもほら、武内さん今彼女と同棲中だから退院した後住む場所が無いって言ってて・・・ってサソ子ちゃんの方がそこら辺は詳しいでしょ」
サソ子 「うん。入院前までは彼女さんと一緒に住んでた。そうだよね同居人といえども接触禁止だもんね」
シシキ 「そう。んで、どうせ俺のこの家住めるの来年3月までで後少しなわけだし、俺も近くに実家あるからって事で残りの数ヶ月だけ破格の値段で貸してるって事。武内さんに。要は俺んちは療養所と化してるってわけ」
サソ子 「え、じゃあ3月が終わったら武内くんはここからどこに移るの?」
シシキ 「さあ、そこまでは俺は聞いてないけど・・・」

 シシキ、部屋を回りながら

シシキ 「(家の中を回りながら)変だな、あんまりここで暮らしてる気配が無い・・・。やたら片付いてるし、冷蔵庫の中も何も入ってないし・・・」

 シシキ、部屋中央に

シシキ 「(客に)大丈夫すか、皆さん?寒かったりとか。一応今暖房付けましたんで・・・」

 客となんかラフに話す

シシキ 「あ、そうだ!(適当なダンボールを持って来る)もしお見舞い品とかある方はこん中にでも・・・。完全に消毒をすれば渡してもいいらしいので」

 シシキ、客にもし何か差し入れ品があれば渡すよう促す
 もしあればダンボールに入れてもらう

シシキ 「あ、てか、サソ子ちゃんのお見舞い品も見せてよ」
サソ子 「え、見せるようなもんじゃ無いけど・・・(笑)いいよ」

 サソ子、スマホを取り出し操作している

サソ子 「(ビニールカーテンを見て)これ越しにできるかなぁ?」
シシキ 「ん?サソ子ちゃんのお見舞い品結局何なの?」
サソ子 「ほら、武内くんずっと部屋にいなきゃいけないから元気無くなってるって思って」
シシキ 「まあ、そりゃそうだけど」
サソ子 「そう。だから私のお気に入りの元気が出そうな曲のプレイリスト作ってきた」
シシキ 「何だそりゃ(笑)プレゼントがプレイリストって・・・選曲が気にくわなかったニューヨークのお気に入りの和食レストランに勝手にプレイリスト組んで送りつけた坂本龍一かよ!」
サソ子 「あははは!確かにそうだけど(笑)えーでもちゃんと選んだんだよ?それに物あげるよりもよりメッセージ性あるって思わない?」
シシキ 「まあ、確かにそうか。(少し考える)・・・そうだよな、よく考えりゃプレイリストは一番センスあるプレゼントだよな。確かに・・・。ごめん、俺が間違ってたわ。坂本龍一は言いすぎた」
サソ子 「坂本龍一は悪口としてカウントされるんだ(笑)」
シシキ 「いや、坂本龍一好きだけどね。でもあの、レストランにプレイリスト送りつけたっていう厚かましさは・・・」
サソ子 「え、でシシキ君はお見舞い何にしたの?」
シシキ 「いや、俺ほら、そう、選ぼうとして最初ロフトに行ったんだよ。渋谷の。で、色々見てて、雑貨とか入浴剤とか。でもよくよく考えたらAmazonで買ったほうが安いのかなって気づいて、一旦保留する事にしたんだよ。で、一旦帰って改めてAmazonで調べてたら、なんかAmazonってギフト用ラッピングとかもあるみたいなの。で「あ〜丁度いいじゃん〜」って思ったら、ラッピングは別料金だったのね。だからラッピングだけは自分で用意した方が安く済みそうだぞって思って、またロフト行ったんだよ。渋谷の。そう、ラッピングコーナー。でもそこでラッピング見てたら、「あれ?ここで売ってるラッピングもAmazonで買った方が安いんじゃない?」って気づいちゃって、で、とりあえずその日はまた一旦帰ったんだよ、そんでAmazonでラッピングって検索したら・・・」
サソ子 「まさか結局買わなかったの?」
シシキ 「まあ・・・そうなるかね、ちょっと間に合わなくて」
サソ子  「えぇ〜〜〜!!」


【4.身体貸出/Body Loaning】

 ベッドがモゾモゾ動く

シシキ 「おっ・・・」
サソ子 「あ、起きちゃったかな?」
シシキ 「(ベッドに向かって)武内さ〜ん。(客にも目をやり)みんなでお見舞い来ましたよ〜」

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