マヂカルラブリーのM-1ネタは『ゲーム"実況"型漫才』である

ito.ur.rightです
M-1面白かったですね
自分は公式Youtubeチャンネルで見ていました

マヂカルラブリーの漫才はとても面白かったですが、そのキモは漫才の形式と題材、動きによるボケと逐次的なツッコミにあると感じました

ルール型漫才とゲーム型漫才

漫才はいろんな型に分類できると思いますが、その中でも「ルールに乗っ取って行われる漫才」をここでは『ルール型漫才』と命名します
そしてルール型漫才の中でも、「『システム』を演じる漫才」を『システム型漫才』と、「『システム』と『プレイヤー』を演じる漫才」を『ゲーム型漫才』と命名します

“システム型漫才”とは

ここでは「『システム』が存在する漫才」を『システム型漫才』とします
コンビでシステムを演じるため「システムへのツッコミが存在しない漫才」になります
これに該当する漫才は少ないと思いますが、以下の漫才が該当すると思われます
真空ジェシカ - コンビニ (2017/08/25 ★今週の一番【真空ジェシカ(人力舎)】TBSラジオ「マイナビLaughter Night」)

”ゲーム型漫才”とは

ここでは「『システム』と『プレイヤー』が存在する漫才」を『ゲーム型漫才』とします
「ゲーム型漫才」は、例えば「既存のゲーム(ex.クイズ)」や「新しいゲーム」というシチュエーションがあります
「新しいゲーム」はジャルジャルの「ピンポンパンゲーム」「国名わけっこ」などが該当します

「新しいゲーム」をモチーフとした漫才の欠点にルール説明の煩雑さがありますが、「国名わけっこ」はシステムがシンプルであり後半はルール説明不要で改良された漫才だなぁと感じます

ゲーム型漫才ではコンビ内でそれぞれ役割を演じることになりますが、
この役割には多くのバリエーションが存在します
例えば『システム』に対して『プレイヤー』がツッコミを入れるタイプや、
『システム』を破る『プレイヤー』に『メタ視点』がツッコミを入れるタイプがあります
ここでは動画配信サイトに投稿されるゲーム動画の形式を参考に、大きく『ゲームプレイ型漫才』と『ゲーム実況型漫才』と分類します

ジャルジャルの上記2つの漫才は、以降に説明する『ゲーム”プレイ”型漫才』に該当すると思われます

ゲーム”プレイ”型漫才

ゲーム”プレイ”型漫才はシステムから得られる結果自体に笑いを持たせた漫才を指します
今回のM-1 2020では東京ホテイソンのネタが該当します

東京ホテイソンのネタでは、出題者(システム部分)をボケ・ショーゴが担当し、回答者(プレイヤー部分)をツッコミ・タケルが担当していました
ボケ・ショーゴが提示するクイズは問題と解答が破綻しており、タケルの独特なツッコミで実際の解答(面白い文字列)を明かす形式です

「アンミカドラゴン新大久保に出現」というツッコミがプレイ部分で、「クイズが破綻しているぞ!」というツッコミが実況部分です
つまりは、ゲームをプレイした際の結果部分に笑いどころを持ってきているわけであり、本来のタケルの役割である回答者視点によるツッコミは控えめになっています
ゲームプレイ部分に笑いどころを持ってきているので、ゲームプレイ型漫才に分類できるのではと思います

このタケルの独特なツッコミで観客が答えを理解する、というフォーマットは東京ホテイソンらしいネタであり工夫だなと感じます。
東京ホテイソンの漫才は、ショーゴの振る舞いをタケルが翻訳することで成り立たせています。
翻訳する際にユニークな語彙を用いるパターン(初期)もありますが、今回の『クイズ』という漫才は、『英語』などに見られたタケルの意味不明な文字列によるツッコミを改良した漫才ではと思います。

『クイズ』終盤における「狸の書いた文章」のくだりも、タケルという翻訳装置の特性を生かした大ボケだなと感じました

ゲーム”実況”型漫才

ゲーム実況型漫才はシステムとプレイヤーの相互作用に笑いを持たせた漫才を指します
今回のM-1 2020ではマヂカルラブリーのネタが該当します。

マヂカルラブリーの「フレンチレストラン」のネタでは、プレイヤー部分をボケ・野田が担当し、実況部分をツッコミ・村上が担当していました
フレンチレストランでのマナーがシステムとして提示され、それを実践しようとするボケ・野田の振る舞いに対して、ツッコミ・村上が逐一訂正を入れるという形式です

「ボケ・野田の振る舞い」がプレイ部分で、「違うよ!」という村上のツッコミが実況部分になります
つまりは、システム通りに動かないプレイヤーの振る舞いそのものではなく、それに指摘をする実況部分に笑いどころを持ってきています

マヂカルラブリーもゲーム”プレイ”型漫才のネタがあります

マヂカルラブリーのネタはマナーという既存のシステムを利用しているため、天丼に用いることができる点やルールを逐一説明いなくてもよい点が利点としてあります
東京ホテイソンのように複数種類のクイズを用いる場合は、毎回その説明と理解が必要であり、その観点では、見取り図の行ったストーリー型漫才でも逐一場面転換の説明と理解が必要でした

終わりを組み込んだシステムによる漫才のオチ

マヂカルラブリーは天丼に用いたシステムに「終わり」を含めていることも特徴的です
見取り図が決勝ネタの冒頭で「謝罪の練習をする」というボケを伏線として用い、ネタ終盤の終わりに当たるオチに用いていました
対して、マヂカルラブリーはフレンチのルールにおける「終わり」を、ゲームプレイの「終わり」、そしてネタの「終わり」として用いていました
見取り図は天丼を用いない独自シナリオで漫才を構成したためオチを仕込んでおく必要がありましたが、マヂカルラブリーは既存のルールを転用することでオチを仕込んでおく必要がありませんでした
正確には、題材選びの時点でマジカルラブリーのネタにはオチが仕込まれていたというべきかもしれません

誤りの表出するタイミングと継続時間

誤りの表出という点で、ボケ・野田の動きを用いたボケはこのゲーム"実況"型漫才と相性が良いと考えられます
東京ホテイソンと比較した際、ルールに基づく出力の誤りが表出するタイミングが異なります
東京ホテイソンはシステムからの出題がフリとなり、ツッコミによってシステムの破綻が表出します。
マヂカルラブリーは既存のルールによってフリが完了しており、ボケ・野田が動き出すだけで誤りが表出します
対話によるボケも挟まれていましたが(ex.高級店は扉がある?)、それに対して動きを用いたボケは誤りが表出し続けることとなります
つまりボケ・野田の動きを用いたボケは、常時ツッコミを入れることができるようになり、実況形式の漫才と相性が良いのです

まとめ

M-1決勝でマヂカルラブリーが披露したネタは、実況部分に笑いを持たせた漫才であり、他コンビのネタと比べて笑いどころの長い漫才でした。

要点は以下の三つです
- 既存ルールを用いることでコンビの役割からシステムを排除する
- 終わりまで含めたシステムを天丼に用い、オチまでの余計な説明を省く
- 動きを用いたボケで誤りの表出を持続させ、ツッコミを入れ続ける

野田さんの動きだけではなく、村上さんの逐一のツッコミがあの面白さを生み出しているんだなぁと感じます
ネタの題材と形式がマッチした、非常に面白い漫才でした

P.S.
この記事を書こうと思いついた時は、テレビなどのオールドメディアと動画配信系メディアのコンテンツ内容の違いを絡めて書きたかったんですが、そんな元気も時間も考察もありませんでした

おわり〜🍴

元気になります。 ケーキを食べたりします。