変人の店主
渋谷のレコード屋で思い出したことがある。
やはり昔の話だ。そのレコード屋は、雑居ビルの中にあった。雑誌の対談で(お店の紹介記事ではない)で知ったのである。
店内に入ると、店の主人らしきおじさんがそばに寄ってきて、
「何を捜している?」
と私に聞いた。
「テクノやハウスのレコード」と私は答えた。
「あんた、うちのお客さんじゃないな」
「は?」
「おしゃれすぎる。うちの客層じゃない」
私は固まった。
仕事帰りだったので、スーツを着ていた。
「取り出したレコードの縦と横を逆さまにして置くやつがいるのだ。そんなことをするなよ」
出ていけ、といわんばかりだった。そのとき、その店に客はいなかったし、店主は私を睨んでいる。
私はすぐに立ち去った。雑誌の対談にも書いてあったが、そのとおりの変人の店主だった(と書けば、わかるひとはすぐにわかるだろう)。
そのレコード屋は、いまは、ない。
あの店主は、どうしているだろうか。気になるといえばなる。ならないといえばならない。
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