飢餓の村で考えたこと63.64

買い物

買い物はどうするのか。日々の食材はアハモッド君が近くのバザーで買ってきていた。それ以外の買い物は週1回のギオールのバザーで購入する。買い物で日本と決定的に違うところは、どの品物にも定価が付いていないことだ。

だから全て交渉で値段を決めることになる。相場を知らないと不当に高く売りつけられるかもしれない緊張感がある。それを防ぐルールがある。例えばゴザを買いたい場合、ギオールに着くまでにゴザを買って帰る人に「それいくらだった」と聞く。

見知らぬ人でも必ず答えてくれる。それでギオールに着くまでにコザの今日の相場を把握するのだ。このルールは当時ダッカでも通用していた。私がバングラに着いたばかりの頃、人からもらった大きな瓜を抱えてリキシャに乗っていた。

隣のリキシャの乗客から「それいくらだった」と聞かれた。私はまだこのルールを知らなかったから、「なんでそんなことまであんたに聞かれないといけないんだよ」とイラッときていた。このルールは消費者の相場を把握する方法として社会全体でルール化されていたのだった。

値段交渉

今日はきゅうりを買うことにした。きゅうりは4本セットという単位で売っている。きゅうりの値段交渉に入る。売っているのはおじさんだ。自分の庭から採ってきたものだという。

値段を聞くと相場より高い。他ではもっと安く売ってるよと値切る。おじさんは最後の手段に出た。そんなに安く売ったら私の家族はどうやってこの1週間を生き延びればいいんだい。うちは貧しいんだ。

家族は8人でおばあさんとおじいさんもいるんだ。あんたがいう値段できゅうりを売ったら私たち家族はどうやって暮せばいいんだ。きゅうりを買うだけでも鬼気迫る会話が必要だ。最初は一つ一つ買うのに交わされるこの会話に疲れ果てていたが慣れてくると、この交渉は楽しくなってくる。

日本に帰国後、自然食品の流通の仕事を行ったが市販の品物よりも私たちが販売している自然食品の方が値段は高い。それを売るためには安全な品物を生産するために、生産者がどんな努力をして生産しているかを消費者に伝えることが重要だった。

そんな時バングラの値段交渉のことをよく思い出していた。バングラでの買い物は時間がかかって非効率だけど、きゅうりを売るおじさんの家族の状態まで分かるなんて、一方で素晴らしいことのように思える。


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