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渉外不動産登記は準備が大変

皆様こんにちは
司法書士試験科スタッフのSです。
 
去る令和5年12月15日、渉外不動産登記に関連する法務省民二第1596号通達が発出されました。
今回のコラムは、今般発出されました渉外不動産登記の通達にちなみまして、「渉外不動産登記(今回は自然人に限定します。)は準備が大変」をテーマにお送りしたいと思います。
これから司法書士を勉強しようと思っている方、現在勉強中の受験生の方、新人合格者の方でこれから渉外登記をやってみたい方など、自身の浅い経験に基づく拙い文章で恐れ入りますが、何か参考になることがあれば幸いです。
今回の通達は施行日が令和6年4月1日になることから、来年の司法書士試験の試験範囲にも入ります。通達の原文は比較的短いですが、読んでいる時間はないというタイムパフォーマンス重視の受験生の皆様方、伊藤塾では、試験に関連する通達は講師陣が講義の中で都度指摘しますので、どうぞご安心ください。 

昨今、外国人が不動産の登記名義人になる案件が増えています。日本在住の外国人の方もいれば、外国在住の外国人の方も当事者になることがあります。
12月15日に発出された上記の通達は、外国在住の外国人等が所有権登記名義人になる場合に関する取扱いに関するものですが、比較として、まず日本在住の外国人のケースをご説明します。 

不動産登記で所有権登記名義人として登記するには、氏名と住所を記入する必要があります。
外国籍の方で日本に在住し、日本の各市町村で住民登録している場合は、日本国籍者の場合と基本的に同じで住民票は発行されますし、印鑑登録も可能ですので印鑑証明書も発行されますので証明は容易です。
また、登記申請人の当事者本人確認のためにご本人の身分証明書を確認する必要があります。日本人では運転免許証、マイナンバーカード、などいろいろありますが、日本在住外国人の身分証明書としては一般的には在留カードで確認することが多いです。(特殊なものとして、日米地位協定に基づく米国軍人及び軍属の日本在留資格、(通称SOFA資格)にもとづく軍発行のIDカード等もあります。この場合、在留カードは発行されません。)
住民票や在留カードの記載はローマ字や、漢字圏の方なら漢字名の場合、両方併記のものもありますが、不動産登記記録には全部カタカナで登記する必要があるため、外国人の氏名のカタカナ表記を必ず確認する必要があります。
例えば、「Michael」とあったら、=マイケルとはかぎりません。国によってはミシェル、ミハエル、ミカエルと発音されることもあります。必ず、原音に近いカタカナ表記を使います。
ローマ字名の場合は、カタカナに引き直す際に、一般的な表記として、名字と名前(人によってはミドルネームもあり)の間にスペースで区切りがちです。しかしながら登記システム上エラーが生じてしまうのでスペースは使えません。必ず、「ファミリーネーム・ファーストネーム・(ミドルネーム)」とするか、「ファミリーネーム、ファーストネーム、(ミドルネーム)」のように、「・」中黒か「、」句読点で区切るか、もしくは氏名全部を中黒や句読点を入れることなく一気にカタカナを連続して記入します。
外国人の方の場合、ご本人が名乗っていても、それは日常生活上の略称で、正式氏名はミドルネールが1つ以上あることがよくあります。ミドルネームは不動産登記での氏名を記入するときは省略することができますが、もしミドルネームも含めて登記を入れる場合は、かならずミドルネームのスペルも含めて確認する必要があります。
漢字圏の方で、在留カードではローマ字表記のみで氏名を記載しているものの、不動産登記記録には漢字名で登記を入れたいと要望がある場合には、前提として、ご本人の申請により在留カードのローマ字名に漢字名を追記していただく必要があります。
在留カードの記載事項の変更は、かなり時間はかかるものの、日本に在留資格のある外国人は、日本滞在中、在留カードを常に携帯する義務があるため、新カード発行自体は即日対応してもらえます。ただし、肝心のご本人に漢字追記変更申請手続をしていただかない限り、司法書士としてはどうしようもないので、変更が間に合わないと、やはりカタカナ名で登記申請するしかありません。
また、漢字名で登記といっても日本で登記可能な文字に限りますので、それ以外の漢字名の場合も在留カードに漢字併記したとしても、やはりカタカナ名で登記することになります。

外国在住の外国人の場合、氏名表記は日本在住外国人の方と同様の処理になりますが、外国在住外国人の現住所を証明する証明書の準備にとても時間がかかることがあります。
日本では、住民登録制度があるので、役所の窓口ではもちろん、今ではマイナンバーカードを持って利用登録をしていれば、全国のコンビニでも住民票が取得できます。
日本同様の住民登録制度を採用して住所を証する書面を発行する国は少数派です。例えば、アメリカでは住民登録制度はなく、住民票が発行されることはありません。
日本で不動産登記を申請するにあたり、所有権の登記名義人になる方で、住民票のない国の外国人の方の本国での現住所を証明するためには、台湾、韓国など、一部の国を除いて、もっぱら本国等の公証人作成の「宣誓供述書」を使用します。各国の事情により申請から発行までに大変時間かかかることもあります。
この宣誓供述書は、世界各国、同一国内でも州、郡、県よっては本当に書式がバラバラです。住所証明書とサイン証明(印鑑文化がある中国は印鑑証明。)を兼ねているものもあります。
印鑑文化がある国のものなら、日本同様に本国官権の公印が押印されています。印鑑文化がないサインの国は公証人のサインと蝋で刻印がはいっているものもあります。公証人のサイン偽造防止のためもあり、サインの筆記体のクセが強すぎて判読にとても苦労します。活字で公証人の氏名の記載がなく純粋にサインのみの場合は特に困ります。宣誓供述書の日本語訳文を作成する際、公証人の氏名もカタカナで書く必要があるので、公証人の氏名は活字と読み方の確認は必須です。
氏名のところでもカタカナ表記ですが、住所も基本的にカタカナ表記です。ま住所表記の記載は日本同様の住所記載順序のとおりに引き直します。

今回の通達を自然人のところに限り抜粋して要約すると、外国在住外国人の現住所を、上記の宣誓供述書を作成して証明する場合には、さらに次の書類が添付する必要があるとされました。
①  旅券を所持している場合には、旅券の写し
②  旅券を所持していない場合は、旅券を所持していない旨の上申書及び登記名義人になる者の氏名の記載又は記録がある書面等の写し、
③  外国語で書かれた書類についてはその日本語訳文

外国在住外国人の中には日本語ができない人も多くいると思われます。登記申請に際しての連絡なども含めると、今後は外国語から日本語、日本語から外国語に翻訳する分量が増えることが予想されます。

添付する日本語訳文ですが、作成にあたり資格は問われないので、英語がそれなりにできる司法書士や補助者の方が作成しています。書式に違いはあれ、大体同じようなことが書いてありますし、特に英語であれば辞書で単語を調べていけばよいので、大学卒業程度の英語力があれば十分対応可能です。
最近では、AI翻訳がありますので、特に辞書はいらないのではないかと思うかもしれません。時間がないときは単語検索を利用すると便利ですが、AI翻訳につきものの特有の不自然はありますし、実際にやっているうち他に色々調べる必要が出てくるので、英語に関しては、渉外登記用に、是非「学生用ではない」収録語数が多く、現代英語に強い辞書を一つお手元に用意することをお勧めします。
研究社のリーダーズ英和辞典、同社のリーダーズプラス、同社の新英和大辞典、大修館のジーニアス大英和辞典など、大辞典系が1つあれば心強いと思います。

渉外登記では英語だけでなく中国語圏の方が関与されることも非常に多いです。中国語は英語と文法構造が近いので、辞書で単語を引いて意味がわかれば、話せなくても宣誓供述書1枚くらいであれば日本語に訳すことは可能です。
中国語を読めなくても知らなくても引ける中日辞典もあります。
50音引き基礎中国語辞典(講談社) がかなり便利です。

渉外登記で使用する宣誓供述書や外国の証明書の類いは、日本在住日本人の方では実生活の中で現物をみることはほとんどないと思います。私も実務ではじめて現物をみました。一度書式サンプルを見ておくとよいと思います。
英文での各種証明書の読み方の参考書籍としては、日本加除出版株式会社の「英文の法律・法的文書作成に関する実践と書式」がおすすめです。文書作成の基本ルールから、各証明書のフォーマットが数多く掲載されていて非常に参考になりました。
上記の本の著者のお一人の司法書士山北英仁先生は、渉外登記の第一人者の大先生で、数多くの渉外登記関連の書籍を書いておられます。
同じく山北先生の書籍で、日本加除出版株式会社から刊行されている、渉外不動産登記の法律と実務渉外不動産登記の法律の実務2は英語圏からアジア圏まで広く記載されていて、渉外不動産登記を扱う上で欠かせない本だと思います。

渉外不動産登記は大都市圏特有のものではなく、地方であっても案件はやってきます。いざというときになるべく対応できるように、私も引き続き語学共々勉強を続けていこうと思います。


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