カイト/KITE

カイト/KITE(2014年:アメリカ・メキシコ)
監督:ラルフ・ジマン
原作:梅津泰臣
出演:インディア・アイズリー
  :サミュエル・L・ジャクソン
  :カラン・マッコリフ
  :カール・ボークス
  :デオン・ロッツ
 
経済が荒廃した世界で少女の果てしない復讐が幕を開ける。ドラッグに傷つきながら目的を果たそうとする少女と、それを陰で操る刑事。その少女に救いの手を差し伸べようとする少年と、過去の事件が絡みあい、残酷な展開を見せる。日本アニメーション発、アメリカ制作の近未来クライムアクション。
原作は元々日本の18禁アニメーション。性描写はあるが、原作者の梅津泰臣によれば、凄惨な戦闘シーンを描きたかったということで年齢レートを上げたのだという。アニメーション作品は海を渡り、アメリカで高い評価を受け、焼き直しをされて実写作品となった。原作を見たことがないので比較ができないが、なるほど制作側の力の入れようはなかなか。荒廃した世界を見事再現し、街には人さらいが横行。人身売買を手掛ける組織が自分たちの犯罪をビジネスと開き直るようなモラルが荒んだ街を作り上げていた。かろうじて警察権力は存在するが、多発する犯罪すべてに対処できていない。まさしく病んだアメリカがさらに崩壊した姿を描いている。
そんな街の中で人身売買組織の連中を暗殺する少女のビジュアルは目を引く。序盤は真紅のウィッグを被り、娼婦のように振舞いつつ、標的を殺害。見た目は可憐で華奢な少女だが、アクションは体張った場面が多く、屈強で獰猛な輩から一方的に暴行を受けてボロボロになることもある。それでも一瞬のスキをついて相手の頸動脈をナイフで切り裂き、鋭い髪留めを突き立て、羽交い絞めにされた体勢から顔面を蹴り上げたり、特殊な弾丸を装填した銃をぶっ放すなどアクションが秀逸。中でも敵の首を大きな肉切り包丁で介錯のように刎ね飛ばしたシーンは印象に残る。洗練されたものではないが、純粋な暴力のカタルシスを感じた。彼女は幼いころ両親を殺された過去があり、その復讐のため人身売買組織のボスを追う。恐怖や苦悩を打ち消すため特殊な向精神薬を常用しており、禁断症状と副作用で記憶が失われつつあるという業を背負う。キャストのインディア・アイズリーが復讐を遂げるために自らの命も精神も燃やし尽くそうとするかのような破滅的生き方を見事に演じているのが圧巻。ウィキ先生によるとオリヴィア・ハッセーの娘さんらしい。びっくりした。
その彼女の背後にいるのがサミュエル・L・ジャクソン演じる刑事。警官だった少女の父の同僚ということで彼女の復讐に協力しており、武器の提供や証拠の隠滅、向精神薬の調達まで支援している。何かしらの目的を持っているようで、彼女を支援してもその暗殺の不手際にイラついたり、向精神薬に依存している彼女をたしなめながら用意するなど怪しい行動もある。サミュエル・L・ジャクソンの白でも黒でもない不穏な存在感がよく似合っている。ただ重厚な演技ができる役者なのでもう少し存在感を出して、警察の暗部を象徴するような振る舞いが欲しかった。
ストーリーは自分が殺人わらしべ長者と揶揄している内容で、一人殺して次の目標の情報を得て、次の目標を殺せば、さらに大物が出張ってくるという延々と殺し続ける展開。その最中で少女を知る謎の少年が現れ、彼女の過去をほのめかし、向精神薬の影響で記憶が混濁しつつある彼女の行動を左右するようになる。
全編通せば何かの映画に似ている感があり、某フランス人監督の出世作の影響もちらつく。また序盤の派手なアクションとヒリつく展開の後、終盤のつながりが今一つに感じてしまい、急に新しい人物が出てくるのは説得力不足。またもっと伏線を散りばめて、真の仇にふさわしい登場の仕方を見せてくれれば盛り上がりからラストまで見ごたえがあった気がする。
原作がアニメーションだが、日本のアイデアやコンテンツが活かされた作品であることはよく理解できる。確かサミュエル・L・ジャクソンも例のヒーロー物で眼帯していたのは、日本の隻眼剣豪のイメージとか。日本のコンテンツが海外で評価され、更に広がりを見せてくれればと期待している。

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