海賊じいちゃんの贈りもの

海賊じいちゃんの贈りもの(2014年:イギリス)
監督:アンディ・ハミルトン、ガイ・ジェンキンス
配給:ライオンズゲート
出演:ビリー・コノリー
  :デヴィッド・テナント
  :ロザムンド・パイク
  :エミリア・ジョーンズ
  :ベン・ミラー
 
別居中の夫婦と三人の子供たちは祖父の誕生日を祝うため故郷へ向かう。帰省中休戦の夫婦だが、些細なことで口論する。祖父宅では投資家でモラハラ気質の兄が父の誕生日を盛大に祝おうとパーティーを段取り。うつを患う彼の妻と陰キャの息子を𠮟りつけつつ余念がない。そんな様子を見ながら祖父は嫌気がさしつつも、三人の孫たちと思い出の海岸へピクニックに出かける。祖父は末期がんで余命いくばくもない。孫たちに自らの武勇伝や心の自由を説く祖父だが、その最中に寿命が尽きて帰らぬ人に。孫たちは祖父の願いを叶えるべく、ヴァイキング流の葬式を行おうとするが、大きな問題に発展してしまう。
序盤の勢いはブラックなホームコメディの様相。夫はどことなく頼りなく、妻は思い込みで暴走気味。そんな二人を見つめる三人の子供たちの視線は冷ややかで、辛辣なセリフを吐く。長姉はメモ魔で両親が言ったことを証拠と言ってすべて書き留めようとし、真ん中の長男はヴァイキングオタク。何でもかんでもヴァイキングを持ち出して両親を閉口させる。更に末娘は石やブロックに名前を付けて旅行に持ち出し、大人になぜなにを問いかけては困らせる。
そんな三人の孫を祖父は大らかに受け止め、自らの武勇伝や思い出を語り、両親の離婚に悩む長姉を励ます。豪放磊落かつ愛情に満ちた語り方で内容も面白かった。一度サッカーの代表に選ばれてヘディングで得点を決めたと語ったのち、「オウンゴールだったがな」とオチがついたのに愛嬌を感じて笑えた。孫娘に車を運転させて立て看板を破壊し、「前からぶっ壊したかったんだ」と痛快に喜んでいるのも笑った。末期がんを患っているようには見えない艶々とした精力的な老人だが、思い出の砂浜で戦死した自身の兄が迎えに来た時、自らの終わりを悟るシーンが印象に残った。が、あまりにもあっけない退場で残念。もっと孫三人とその従兄を引き連れてハチャメチャな活躍を期待したんだが。彼の「最期にはどうでもよくなる」というセリフは自分の死へのこだわりや恐れが無くなり、あるがままを受け入れるというある種の境地を感じた。映像では草原と海が美しい映像で、この地を愛した祖父の想いが孫たちへの愛情に投影されていたのも印象的。
最近の作品らしく、各所に現代の世相や問題等が一般人の生活にも影響を及ぼしていることも印象的。夫の浮気相手がパラアスリートだったり、妻は子供を連れて遠方に引っ越しして更にステップアップを考えていたり、兄のモラハラがその妻のうつの原因なのに当の兄はそのことを知らず、見栄やマウントをとることしか考えていない、今問題視されている伝統的な男性像であったりと。今まで観てきた作品でその背景も考えさせるものは少なかったので少々新鮮。
祖父が望んだということで、孫たちがヴァイキング流の弔いをしようと奮闘する。三人で協力して準備をする姿は児童文学のようで、がんばれと応援したくはなったが、その後の展開にはゾッとしてしまった。子供の純粋さが巻き起こした事件ではあるが、それをやってしまえば一大事になるという想像ができなかったのだろうか。まぁ、映画だしフィクションだからいいんだが。孫たちが自分たちで判断し、行動した背景には口論ばかりして、祖父の思いを考えていない大人たちに愛想を尽かしたための行動だったので何か切ない。
心情的には共感できることは多いが、無理やりな展開もあり、せっかく出てきた演者が取り残されているのは引っかかる。陰キャの従兄が楽団の女子と親密になってるのは説明不足。そこでじいちゃんが出てきて、あれこれ要らんお節介で仲良くなるっていう演出があればと思った。その他うつを患った兄嫁とかLGBTの牧場主とか、もっとお話を引っかき回してくれたら盛り上がったんではないかと思う。
観終わった後、あるがままに最期を受け入れるっていう死に様だけど、その心境に至るのは今のオレにはできないんだよなぁという感想だった。

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