ドライヴ

ドライヴ(2011年:アメリカ)
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
配給:フィルムディストリクト、クロックワークス
出演:ライアン・ゴズリング
  :キャリー・マリガン
  :ブライアン・クランストン
  :アルバート・ブルックス
  :オスカー・アイザック

自動車にかけては天才的な技能を持つ寡黙な男が、ある日隣人の人妻を助けたことから禁断の純愛が始まる。ある事件にかかわってしまった彼は愛した女とその息子を守り切れることができるのか。キャッチコピーは「疾走する純愛」。寡黙で狂気を抱えた逃がし屋と人妻の物語。
監督はデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン。ここ数年で評価を上げている監督の一人で、主役のライアン・ゴズリングのオファーでこの作品を手掛けた。作品の作り方は個性的だが主張は強くなく、観客の心に訴えかける描写が多い。表情を活かした撮影も感情に沁みるものを感じた。都会の闇に対比される煌々と輝く明かり。暗闇の中での緊迫感ある沈黙。殴られた男が壁によりかかる後ろの物陰でおびえる子供のカメラワーク等々、考えられた映像表現が見事。BGMはそのシーンに混ざり合うかのように、主張は少ないが存在感がある。すべてが過度にならず、物足りなくもない。いいバランスで作品が構成されている。自分が観ていない作品でもドンドン新しい才能を持った監督が出てきているんだなとため息が出てしまう。
やはり主演のライアン・ゴズリングの存在感は大きい。しゃべらないが、雰囲気で見せる演技に徹して、観手の心に訴えかけている。人妻との禁断の純愛とその子供との交流に見せる笑顔はさわやか。強盗たちとの交渉で見せた表情はプロフェッショナルが故の冷徹さで、決して不条理にはくじけない強さを感じる。デニムや白のジャケットがカッコよく、なぜかいつも楊枝を口の端に咥えている。本当は何者なのか一切説明がないところに、ミステリアスな雰囲気を漂わせている。高倉健の映画を思い出した。
そして人妻役のキャリー・マリガンがかわいい。小柄でショートカット、赤いベストや青のシャツなどの衣装がよく映える。服役中の夫を心配しながらも、隣人に惹かれてしまう悲しそうな表情が可憐だった。エレベーター内でのキスシーンは美しいがとても悲しく見える。取り立てて美人で華のある女優さんではないが、健気に耐える演技がいい。この人こそ幸せになってほしいと思った。
ストーリーは中盤から一気に進む。出所した夫が事情から強盗を強要され、それを助けるため主人公が逃がし屋として関わるが、その強盗計画自体も実は…という展開。映画ではよく使われるプロット。それを陳腐にせず、映像と音楽、そしてライアン・ゴズリングの演技で唯一無二に見せている。今までは物静かだった主人公が、人妻を守るためとは言え凶暴性を爆発させるシーンは絶句してしまった。チンピラを襲撃して真実を吐かせる脅しの技は独創的で本当に恐怖を感じる。襲撃された際の洞察力、反撃する戦闘力。加えて、敵を行動不能してしまうほどのドライビングテクニック。本当に何者だろうかとよりミステリアスに感じる。ただしこんな狂気を抱えた男が幸せになることはできない。
犯罪サスペンス・ラブロマンス・カーアクションと詰め込んだ作品だが、どれも破綻をきたすことなく一つにまとめ上げられているのが秀逸。展開も飽きることなくテンポもいいので一気に観るのは苦にもならなかった。なぜその場面のそこでそれをする、なぜそれを持ち出した、それはあまりにも不確実ではないかと首を傾げる表現、演出もあるが、最後まで疾走していくストーリーは、近年の説明過多の映画にはない爽快感と没入感がある。音楽も考えて使われており、ラストシーンからエンドロールへの曲もポップな割には悲しく、いい余韻を残してくれる。使われるアメ車や主人公と人妻の衣装もこだわった感があり、ただアイテムを観ているだけでも楽しめた。こういう車や小物類に眼がいってしまうのは自分の癖でもあり楽しみでもある。
短い尺の中で、登場人物の複雑さもなく、饒舌な設定もなく、ド派手なアクションもない。人物の描写を中心に置いた描写で、情報を少なくした反面、作品がしっかりと作られている。ニコラス・ウィンディング・レフン、今後もチェックしておこう。

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