アンノウン・ボディーズ

アンノウン・ボディーズ(ベルギー:2017年)
監督:ヤン・フェルヘイエン
脚本:カール・ヨース
出演:ヴェルナー・デ・スメット
  :ケーン・デ・ボウ
  :ソフィー・ホーフラック
  :マルセル・ヘンセマ:
 
刑事モノは古今東西、規律を重んじるボスとやりすぎな捜査が問題視される熱いはみ出し刑事の対立というのがお決まり。連続殺人犯を追いかけるベルギー産のクライムサスペンス。導入からの雰囲気と展開は良かったんだが、中盤から失速。エンドに至っては残念この上ない。
死体発見の通報を受けた警察が現場に向かうと警察犬が死体を発見、するが一つだけでなく複数発見され、連続殺人事件と判明する。その遺体はどれも首が切り落とされており、頭部はなかった。再び通報を受けたはみ出し刑事はその現場で呆然自失とした女性精神科医を保護。彼女は記憶が混乱しており、自身がどんな目に遭ったのかも分からない。警察は欧州警察からプロファイリングの専門家を招いて捜査を進めるが、反抗的なはみ出し刑事は保護した女性精神科医から犯人の糸口をつかもうと捜査を進め、次第に彼女と親密になっていく。捜査本部は関連した事件から容疑者を絞り込んでいき、そして一人、一人と疑惑から外れていく。が、次第に自分勝手に捜査するはみ出し刑事は捜査から外されてしまう。連続殺人犯の正体とは…。
序盤から遺体がバンバン画面に現れ、かなり陰鬱な気分になる。首を切り落とされた女性の遺体を全身見せるシーンもあり、観ていてかなりショッキング。バスタブの大量の血液に、冷凍庫に保管された生首。さらにはその首にウジが湧いてしまったり、晴天の下に晒したりと見せ方がえげつない。変なホラーより背筋に冷たいものが走る。遺体の見せ方以外にも暗い映像に印象的に原色の光を交錯させたりして、事件の闇が深いものと感じさせられる。なかなか先進的で意欲的な演出を取り入れて、連続殺人犯の異常性や凶悪性も演出している。
その連続殺人犯を追うはみ出し刑事はステレオタイプの問題児で、有能なのかもしれないが捜査の独断専行、同僚への恫喝、上司への反抗的態度等々凡そチームプレイには向いていない。これまたステレオタイプに一人衣装身形もラフで、革ジャン羽織ったり、ノーネクタイだったり、無精ヒゲ伸ばし放題だったりとご定番。規律を重んじて身形をキチンとした警察組織の中で際立たせるにはこれが一番分かりやすい表現なんだろうけど、ちょっと食傷気味。しかも捜査上重要な証人である女性精神科医と親密になるし。この演出もどこかで観たな。映画としては定番だが、21世紀なんだからこの演出から脱却せんと面白みが減少していくと思った。
科学的なプロファイリングを用いた捜査をする捜査本部も今一つ。犯人像を絞り込むまではよかったが、そこからは地道な張り込み捜査が続く。犯人ではないかと目された人物たちはそれぞれ勝手に行動して疑惑が深くなるのだが、いかんせんどれも個性が弱い。陰の主役でもある連続殺人犯へと連想させる動機や行動、症状が結びつきにくく、ストーリーに盛り上がりを感じない。そんな連中に振り回される警察の無力さも面白みに欠ける。何のためのプロファイリング専門家だったのか。自分の無能さを嘆くならもっと頭脳をフル回転させてほしかった。
今一つキャラクター性が弱い被疑者たちとは対照的に、ある重要な人物が悪目立ちしている。シーンをやたら占有し、やけに突飛な行動を見せつけて、時にはどう考えても怪しい行動、もの言いをする。お前が犯人やろって途中で感づいてしまった。エンドまでその証拠は明らかにされないのだがバレバレである。しかしその凶行の動機も分からない。被害者をどう拉致して、どう殺害して、何のために首を切り落としたのか全く言及はない。決着のつけ方も物足りない。別に断崖絶壁に追い詰められて犯行を語ってほしいわけではないが、犯行の理由がはっきりしないので事件解決のカタルシスを感じられない。
さて、もう一つ気になるのがボカシ。女性精神科医の身体や被害女性の遺体の大事なところが見えないように、公序良俗に配慮された効果だが、あんまりやられると興醒めする原因となってしまった。なら別にそこまで映さなんだらエエやんって話だが、この作品そういう場面が結構多い。それも興が醒める。そろそろこういう映像効果も必要ないんではないかなと思ってしまう。イチ映画好きとしての意見なので、決してやましい気持ちで言っているのではない。決して。

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