アナーキー

アナーキー(2014年:アメリカ)
監督:マイケル・アルメレイダ
出演:イーサン・ホーク
  :エド・ハリス
  :ミラ・ジョヴォヴィッチ
  :ベン・バッジリソー
  :ダコタ・ファニング
 
原題は「シンベリン」。英国を代表する劇作家ウィリアム・シェイクスピアの戯曲の一つを、現代に置き換えて、麻薬組織と警察の抗争の影で、引き裂かれた恋人たちが真実の愛を試される。豪華キャストが戯曲のセリフ回し、言い回しを駆使するため、なかなかの迷作。
確か何年か前にTVでこの「シンベリン」の舞台のダイジェストを見た記憶がある。字幕と注釈でストーリーをざっくりと記憶していたが、自分が思っていたシェイクスピア作品とは違うラストが印象に残っている(と言っても知っているのは「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「リア王」「マクベス」の内容だけ)。さわりは映画に準ずる。
麻薬王の娘と幼なじみの彼氏は将来を誓い合う中だが、麻薬王は激しく怒り彼氏を追放する。その麻薬王の後妻は野心的で、自身の息子(麻薬王には継子)と娘を結婚させて権力をほしいままにしようと暗躍。ついには麻薬王を唆して警察への上納金を拒否させて抗争状態に持ち込ませてしまう。一方追放された彼氏は移り住んだ先である男から賭けを挑まれる。それは別れた麻薬王の娘が本当に彼氏を愛しているかを誘惑して試すというものだった。ドラマは周囲を巻き込み、より混乱へと突き進んでいく。
キャストは超豪華。麻薬王にはエド・ハリス。黒の革ジャンを羽織って眼を吊り上げながら拳銃やライフルを振り回し、いかにも危険な男といった容貌。その麻薬王の娘にはダコタ・ファニング。幼なじみへの愛をかたくなに守り、彼氏を信じて自分の身を危険にさらしても彼氏の下へ逃げ出そうとする。この二人のキャスティングはよく配役されていると感じた。麻薬王役エド・ハリスは力強いボスだが、後妻に一服盛られて徐々に弱ってきている演出が随所に見られた。娘のダコタ・ファニングはお嬢様然としているが、髪をバッサリ切り落して男のような格好に変装して彼氏の下へ逃亡しようとしていた。こんなきれいな男の子がいるか!ってツッコミたいが、なかなか頑張ってる。
残念なのが後妻のミラ・ジョヴォヴィッチ。スーパーモデル出身で強い女性を演じさせれば随一の女優だが、そういう特徴を活かしきれていない。悪だくみを企てても迫力はなく、暗躍感も薄いので魅力が半減。終盤には確かに追い詰められての行動だろうが、回想で終わらせられるのはあまりにも存在感が弱すぎる。原典では見せ場があった気がするが、そういった見せ場がなく、非常に残念。
さらにイーサン・ホークも残念。麻薬王の娘が寝ている最中に彼氏との約束のブレスレットを盗み、さらには裸の画像を撮影し、彼氏には寝取ったと嘯くただのゲス。それ以外に見せ場はなく、後半には銃撃戦に巻き込まれて大けがして、麻薬王に問い詰められて悪事を告白するという更なる大ゲス。舞台では割と存在感があった気がするんだが、映画になると途端に貧相になる。
原典への敬意と革新的な意欲は感じられる。原典はローマ軍だったのがローマ警察へ置き換え、ブリテン王は麻薬組織のボスにして、対立構造を現代に通用するように考えられている。しかし警察対犯罪組織という対立構造を肯定するとコンプライアンス的に無理が生じてなんか苦しい。犯罪組織の上部と下部の対立にした方が暗闘が盛り上がると思う。多少Vシネマっぽいが。
そもそも戯曲のセリフ回しをそのまま映画の中に落とし込むと「???」ということになる。急に比喩めいた言い回しで大仰になってしまい、結局何が言いたかったのと疑問が残るだけ。さらにはセリフに気を取られ過ぎて、盛り上がりがまったく分からない。ここが見せ場でこれから派手に盛り上がるっていう場面がまったくなく、映画としては不完全燃焼。銃撃戦のシーンでもあればカタルシスを感じたんだろうが、銃撃戦がすべてが終わった現場だけ見せられても欲求不満が残る。その他、逃げる娘が急に仮死状態になってしまったり(なんかシェイクスピア作品って仮死が多い気がする)、麻薬王の後継者が急に出てきたりと唐突な展開が目に余る。
シェイクスピア作品は舞台で見ればハラハラして感動を覚えるんだろうが、映画では観ていて「なんでやねん」とツッコんでしまう。映画化するには相性が悪いと思う。
 

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