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バーチャル墓地「仮想山 観心寺」(前篇)

VRChatはじめました

 初音ミクが鏡の前で胸を揉んでいる。昔、そんな動画か画像かをTwitterでみたように思う。それはVRChatのプレイ動画で、そういうオンラインゲームがあるのだなという記憶が残った。
 2022年。稼ぎを得るようになってそこそこ経つが、祖母にもらったお年玉で中古のQuest2を買った。Easy come。そういう金でないとなかなか買える値段ではない。
 しかし、1人で遊べるコンテンツや無料で遊べるものは早々に飽きてしまった。そもそもVR自体は2016年から経験している。スマホをVRゴーグル化する簡易なもので、手などは使えないが、COM3D2などをやる分にはそれで十分だった。手が生えたところで初めてVRを経験したときのような感動は覚えなかった
 そこで、先の動画で知ったVRChatを試してみることにした。私も女の子アバターを着て鏡の前で「これが…私…!?」とやってみたい。ただそれだけの純粋な気持ち
 なんやかんやセットアップを終えると、いきなりパブリックインスタンスに放り込まれた。2〜3人の集まりがいくつもあり、横を通り過ぎると外国語の会話が聞こえ、距離が開くと減衰する。自宅にいながら、初めて海外の空港に降り立ったときを思い出した。怖くて話しかけることはできなかったが、この世界の可能性を感じた。

VRChatしがみつきました

 1月11日、JPTで親切な方に初心者案内をしていただいた。その後何度か通ったが、人に話しかける勇気はなかった。それもまあそうで、日頃そのへんを歩いてる見知らぬ人に話しかけられるかというとなかなか難しいのと同じである。

はじめての写真撮影


 また、VR酔いやQuest2のバンドの締め付けがあまりに過酷で、プレイは1時間が限界だった。初めてVRChatにインしたときの直感だけを信じてプレイを続けた。
 1月15日、ポータルワールドを1人で歩いていると、「かんださん」という親切な人が声をかけてくれた。VRChatを始めて間もないことを告げると、ワールドを案内してくれるという。パーティクルライブを2つほど回ったが、あまりピンとこなかった。眺めるだけならCOM3D2のカラオケモードのほうが刺激的である。
 面白かったのは、地下カジノを模しだチップを賭けて増やすゲームワールド。ゲーム自体は特に楽しくなかったが、地下カジノの入口は雰囲気があった。「現実ではとても怖くて入れないような雰囲気の場所でも、VRChatならリスクゼロで入ることができる」と気づいた。
 最後に行ったのが「まで寿司 -MADE SUSHI-」という回転寿司屋のワールド。カウンターで向かい合い、どんな人と会ったとか、アバターの改変の仕方など雑談をしながらバーチャルのにぎり寿司を食べた。
 すると、不思議な満足感があった。もちろん何も食べていないのだが、実際に寿司を食べたのと近い感覚を覚える。考えてみると、現実の食事でも、誰かと一緒に談笑しながら食べるとき、実は何を食べているかではなく、場としての「食べてる感」が重要なのである。
 仮想空間の中で食事をして満足した瞬間、ここは人が生きていくことができる世界だと確信した。この中で食事ができるなら生きられるし、結婚する人もいるだろうし、そして死ぬこともあるのではないか、と。
 かんださんが私に聞く。
「いとよさんはVRChatでやってみたいことはありますか?」
 当時仕事で成果を求めてごりごりやり、それなりの結果を出したものの、社内政治のあれやこれやで疲弊していた私は、ただひたむきに祈りの世界に生きる僧侶に憧れを持っていたこともあり(もちろん、現実はそうばかりではないが)「僧侶になってみたいです。」と答えた。かんださんは少し驚いていたが、「夢が叶うといいですね」と言ってくれたように記憶している。

かんださん

 ちなみに、このときはたまたまサンプルアバターのキッシュちゃんを着ていたが、寿司屋で相手や自分の写真撮ってみると、とんでもなく楽しいものだと気づく。基底現実で楽しそうに自撮りをしている人たちは、全く別の世界の人間に感じていたが、自撮りは容姿に自信があればこんなにも楽しいものなのかと痛感したのであった。 

キッシュちゃん

バーチャル僧侶いとよ

 VRChatでバーチャル僧侶として生きていくことを決意した私は、当初は冠婚葬祭を行うことを考えていた。
 また、そういった肩書を持つことに執着したのは、まだ人とのつながりがほとんどない中で、この世界で他人とつながるためには役割を持つことが必要であると思ったからだ。これはなんとも基底現実に毒された考えで、その後2月4日に「哲学かふぇ ぽこ堂」を訪れ、自然体で話すことができる友人たちができた後には、別に無理して何者かになる必要はないのだと気づいた。その後も「バーチャル僧侶」という肩書は使っているが、バーチャル僧侶であろうとしたのは最初の数週間だけで、あとは惰性で名乗っている。
 それはそれとして、まずはアバターを用意することに決めた。始めた直後は魚の「イトヨ」アバターにすることを考えていたにも関わらず、バ美肉自撮りの魅力に堕ちてしまった私は可愛いアバターを探すことに。
 しかし、本当に自分でアップロードできるかわからないものにいきなり5,000円も出せない。そんな中、色を変えたら僧侶っぽくなりそうなNecoMaid RICHがまさかの800円で売られていることを知る。800円なら失敗しても取り返しがつく…しかもかわいい…そうして無事バ美肉したのである。1月19日。

ルビコン川を渡った
記念すべき初ツイート

教会の建築…のハズが…

 仏教学校を出ていた私は、般若心経くらいは唱えられるので、仏教的な僧侶を目指していたが、煩悩の結果修道女のような見た目になってしまった。そうなってしまったら仕方がないので教会を建てることにした。
 昔3Dソフトを少し触っては挫折してきた私にできるか不安だったが、形だけなら意外とできた。始めてプライベートワールドをアップロードして、自分で作った建物に入ったときの感動は今も忘れない。3Dで作った画面上のものをすぐにVR空間で「実質的に」形あるものとして見ることができるのは、やはりVRの強さである。
 例えば建築関係の人であれば、大きな会社で組織の歯車として建物のごく一部の設計にしか携われなかったとしても、ここなら誰でも自分一人の考えで建物を設計・建築し、人を感動させることができる。そんな事を考えたりした。

ワールドの初アップ

教会、挫折

 しかし、教会建設は挫折した。壁から窓をくり抜いたところ、メッシュが変なことになってしまい、UV展開も思うようにいかなかった。(今ならできると思うが)
 そこで転換を余儀なくされた。面(壁)で構成される教会と違い、線(柱)で構成される日本の寺社建築であればくり抜かなくてもいいのではないかと思った。
 また、VRChatでは宗教活動ができないことを知った(今は禁止されていない)。その結果、葬儀や読経などは扱わないこととし、お墓を建てるだけの活動をする方針が固まった。
 この辺りで数珠を買い(何でもあるものだ)、手に持つようになった。今やすっかり定着した「修道女風の服を来たお寺の美少女住職」は、このような挫折・ねじれにより偶然生まれたものであるが、結果的にキャラが立ったように思う。

1月30日に数珠を購入しており、持っている写真が確認できた

お寺の建立

 こうしてお寺を建てることになり、難しくなさそうな小さなお堂を建てることにした。モデルは山口県にある普門寺観音堂である。
https://4travel.jp/dm_shisetsu/11382095

 今となってはどうしてモデリング初心者がこんな物を作れたのかは分からないが、どうにかお堂が完成した。いろいろトラブルもあったが、Twitterで助けを求めると友人が助けてくれた。
 ぽこ堂では、どなたかが「まずは60点でもいいから完成させることが大切」とアドバイスしてくれた。

 その後は、参道を作っていった。モデルは高野山奥の院で、石畳の道の両側に大きな杉の木と墓が並ぶ荘厳な雰囲気をイメージしたが、苔の雰囲気や少し朽ちたような石の表現ができず、CGの限界を感じた。(技術の問題もあるが…)
 本尊にはmitoさんが作られている半跏思惟像を置いている。なぜこの世にCGの仏像を作っている人がいるのか本当に謎であるが、とにかくありがたい…。
 「観心寺」という名前は、「自分の墓を前にして心がどう感じるかを観る」という意味でつけた。しかし、後で大阪府の河内長野市に国宝を有する同名の寺があると知った。完全にこっちがパクリになってしまった。「おすシ」の英題もそうであるが、ちょっと調べたらわかることを調べない悪い癖が治らない…。

仮想山観心寺落成

 3月21日夜、お寺や参道、祭壇が完成し、ワールドをラボに投げた。ラボに投げると誰でも入れるようになること知らなかった私は、沢山の人が訪問を始めた状況に焦る。当初金曜日にワールド公開&Twitter告知をする予定が、慌ててお墓を受け付ける告知ツイートを用意し、翌日朝に告知することにした。
 翌朝、告知をしたところ、まだフォロワーは少なかったものの、確か250人ほどにリツイートしていただき、多くの人に知っていただけた。攻撃的な反応もなかったように思う。

左手に持っているのはシャベルではない

 翌日、ぽこ堂のイベント後、ひっそりと友人たちと落成式(今写真を見返すと、この全員と関係が続いているのはなかなかの奇跡である)。
 このとき初めて宝土 蓮華さんにお会いしたが、昨夜お寺をアップした3月21日は弘法大師(空海)が高野山・奥の院で入定した日と教えてくれた。すごい偶然である。
 完成の嬉しさもあるが、自分の作ったワールドで人が楽しそうに遊んでいるのを見ると、胸が熱くなった。

まとめてみると…

 こうして当時の想いを振り返ってみると、その後の私の活動の主軸となるような直感や発見に満ちいていたのだなと気付かされる。
 さて、申込みを開始したお墓を建てるサービスは結局どうなったのか。どんなお墓が建っているのか。インターネットの世界における死とは、弔いとは…。
 これらは後半にまとめたい。(いつか書きたい)


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