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WE CAN STREAM DE LA SOUL

 3月3日、デ・ラ・ソウルのカタログが遂にストリーミングで解禁される。解禁されるアルバムは以下の通り。

  • 3 Feet High and Rising (1989)

  • De La Soul Is Dead (1991)

  • Buhloone Mindstate (1993)

  • Stakes Is High (1996)

  • Art Official Intelligence: Mosaic Thump (2000)

  • AOI: Bionix (2001)

 難攻不落とも思われたデ・ラのカタログのストリーミングがいよいよ解禁されるが、そうなるまでには紆余曲折を経た。そもそもデ・ラのカタログがストリーミングで解禁されなかった理由は二つある。
 一つは、サンプリング・クリアランス(権利処理)の契約内容の問題。デ・ラのアルバムでサンプリングされた曲は、タートルズなど未許諾で訴えられたものも一部あるものの、その多くはサンプリング許諾契約が交わされたのだが、その契約内容のうちサンプリングの許諾の範囲に関しては「フィジカル・フォーマットでのリリース」と明記されていたのだ。つまり、デジタル・リリースは許諾の範囲外となっており、ストリーミングで解禁するためには契約の巻き直しが必要だった。
 そしてもう一つは、ストリーミング・サービス側からレーベルに対して支払われるデジタル配信収入のうち、グループに対して支払われるロイヤリティの料率の問題。これはデ・ラに限らず、他のアーティストからも度々問題提議される「ストリーミングは儲からない」という話に関係している。

 順を追って話そう。1981年にトム・シルヴァーマンが立ち上げた〈 Tommy Boy 〉は、1985年からワーナーとパートナーシップ契約を交わしていた。しかし、ヒップホップの市場規模が成熟しきった2002年にワーナーとの協業関係は解消され、再びインディペンデントに戻る。その際に、協業期間中(1985年〜2002年)のカタログの原盤権はワーナーの所有となったため、〈 Tommy Boy 〉はデ・ラのアルバムをコントロールすることができなくなった。

Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

 そしてワーナーはカタログこそ所有していたが、デジタル配信には前向きではなかった。それは前述したサンプリングの権利処理の問題が理由だ。メンバーのポスは2016年のBBCのインタヴューで「あいつらは対応したがらなかった。こんな感じさ。『そこまでする価値あるのかい?』ってね」とワーナーに対して文句を垂れていた。だが実際のところ、デビュー・アルバムの『3 Feet High and Rising』だけでも70曲以上がサンプリングされているので、彼らのアルバム全ての曲のサンプリングの許諾契約を改めて巻き直すとなると骨が折れる作業となることは事実だろう。

 そんな中、転機が訪れる。2017年にワーナーが〈 Parlophone 〉というドイツのレコード・レーベルを買収した際に事業売却の必要に迫られ、〈 Tommy Boy 〉は自らのカタログをワーナーから買い戻すことに成功する。この時点で、デ・ラのカタログは再び〈 Tommy Boy 〉の管理下に置かれることとなり、そして2019年にいよいよデ・ラのカタログがストリーミングで解禁されるというニュースがインターネットを駆け巡ったのだが、問題はここで起こる。そう、金である。
 デ・ラとはデビューからの長い付き合いである〈 Tommy Boy 〉がグループに対して提示したロイヤリティの料率は10%だった。すなわち、Spotifyやapple musicなどのストリーミング・サービスから〈 Tommy Boy 〉に対して支払われた配信収入のうち、グループには10%しか渡らず、残りの90%は〈 Tommy Boy 〉の取り分になるということだ。この提示条件にデ・ラはノーを突きつけ、レーベル側と話し合いを行ったが、交渉は決裂してしまう。そして、彼らはフェアではない条件となっていることの公表と、ファンに向けて「自分たちの音楽を再生しないでほしい」と訴えたところ、ナズやザ・ルーツのクエストラヴら業界の仲間たちも賛同し、それは「Tommy Boycott」という炎上騒ぎに発展した。結果〈 Tommy Boy 〉はストリーミングを取り下げる始末となった。

 こうして再び暗礁に乗り上げたデ・ラのストリーミング解禁だが、2021年に「レザヴォア(Resovoir)」という会社が救済に名乗りをあげる。音楽の出版管理ビジネスを行うレザヴォアは〈 Tommy Boy 〉を100万ドルで買収し、「デ・ラの音楽をファンの元に戻す」ことを宣言した。買収後、レザヴォアとデ・ラは契約交渉を行い、2021年の8月にはデ・ラは自分たちの音楽の原盤権を自らコントロールできるようになった。当初、デ・ラのデイヴは「2021年中には解禁できると思う」とinstagramで発言していたものの、おそらく件の許諾契約の巻き直しに予想以上に時間がかかったのだろう、結果的には予定より1年以上遅くなったが、無事今年の3月3日に解禁されることとなった、というのが事の顛末である。

 3月3日の解禁に先駆け、1月13日には“The Magic Number”が先行配信された。また、デ・ラの公式サイト限定で“The Magic Number”の7インチや『3 Feet High and Rising』柄のスリップ・マットなども販売されるようだ。

 さて、最後に余談となるが、今回の解禁の立役者となったレザヴォアのA&Rおよびカタログ開発部門の事業本部長はフェイス・ニューマンである。この名前、アルバムのクレジットに目を通す人であればお馴染みかもしれないが、〈 Columbia 〉や〈 Def Jam 〉でA&Rとして数々のヒップホップ・クラシックを制作してきた腕利きの女性で、ナズを〈 Columbia 〉に契約したのも彼女である。『Illmatic』のアルバムには、エグゼクティヴ・プロデューサーとしてフェイス・ニューマンの名前はクレジットされている。そんな彼女は今回の解禁にあたってこう述べている。「レザヴォアが〈 Tommy Boy 〉を買収したとき、最初に電話をかけたのがデ・ラ・ソウルだったのよ」と。

https://its-my-thing.com/imkurious/we-can-stream-de-la-soul

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