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衝撃の敗戦。リバプールの無敗記録ストップは何故起こったのか。【LFCマガジン】

リバプールのリーグ無敗記録が遂に44試合で途絶えた。この記録を打ち破ったのは現在リーグ17位と降格圏に沈むワトフォード。3得点を許し、リーグでは36試合振りのノーゴールとなるなど、文字通りの完敗であった。では何故、"Inevitables"「絶対的」と呼ばれるチームがここまで苦しむ形となったのだろうか。

閉塞感が生まれてしまったワケ

この日、ワトフォードは4-2-3-1のフォーメーションで臨み、相手にボールを回させて自陣ゴール前を固めてカウンターを狙いに行く形を徹底。トップ下を務めたアブドゥライ・ドゥクレは守備時にはボランチと同列に並び、そしてイスマイラ・サール、ジェラール・デウロフェウの両サイドハーフもそこに加わる形で列に加わり、バックラインの前にもう1列守備網を作り、常に2ブロックを組むことを意識して数的優位を作っていた。

リバプールはこの守備網を打開出来なかった。試合の7割を支配したポゼッションも、相手中盤のライン前で回していたものが殆どだ。後半からファビーニョが高い位置を取る様に修正し、前のインサイドハーフ2人が相手のディフェンスと中盤のライン間に徐々に入れるようになったことで数的優位又は同数を作れるようになって以降は徐々にチャンスが増えたが、それまでは完全にシャットアウトされてしまっていた。

引かれた相手に対し、ジニ・ワイナルドゥムはブロックを破壊するアイデアに欠け、オックスレイド=チェンバレンは得意とするドリブルでの前進が出来なかった。そして前線のリンク役としても機能せず、3トップが消えてしまう時間も少なくない。怪我が無ければ、縦への意識の強いナビ・ケイタや唯一無二の存在であるジョーダン・ヘンダーソンらが同ポジションには控えているが、駒不足であったのは確かである。スタメンを務めたインサイドハーフ2人と、相手守備の相性が合わなかった事がこの日攻撃が停滞して閉塞を感じさせた理由の一つだろう。

拾えないセカンドボール

相手が守備時に自陣にドン引きする相手と戦ったことはこれが初めてでは無い。寧ろ最近はその様なチームと対峙する事の方が多かった。それでもここまで勝ちを積み重ねてきたのだ。

今までにあってこの日になかった物は何か。それはセカンドボールを拾う機会が極めて少なかったことである。普段であれば、引かれた相手に対して強引に攻撃を展開して相手がクリア。そのセカンドボールを即座に拾い、また攻撃を展開する。この流れがテンポ良く繰り返されて相手が力尽き、均衡を破ってきたのだ。

「前半はタフだったね。多くのセカンドボールが走り回っていた。ボールを常に持っていたが、クロスするのにも、フィニッシュするのにも適切な位置に持っていけなかった。相手は非常に良かった。組織化され、この日の為に最高のセットアップを用意してきていた。」

指揮官であるユルゲン・クロップも試合後、この様に語った。前節のウェストハム戦でもセカンドボールに関しては同様のコメントを残しており、いかにリバプールというチームにセカンドボールが重要であるかが分かる。

キャプテンのジョーダン・ヘンダーソンの離脱はクラブにとって大打撃だった。今シーズン、彼は息をするように常にセカンドボールを拾い続け、相手に一切のカウンターを許さなかった。引いた相手に対してリスクを負いながらも圧力はかけられるが、セカンドボールを拾えないとカウンターという驚異が待っている。ワトフォード戦はその驚異と幾度となく対峙して自滅してしまったと言っても過言では無いかもしれない。

死んでしまったサイド攻撃

ヘンダーソンを欠いた事で機能しなかったものがサイドへの攻撃である。アンドリュー・ロバートソンとアレキサンダー=アーノルドの両サイドバックから繰り広げられる攻撃パターンは、リバプールを何度も救ってきた。しかし、これは彼らに十分なスペースが用意されることで起こるものである。そのリンク役を買っていたのがヘンダーソンだった。

リバプールのキャプテンはロングフィードに絶対的な自信を持っており、矢を射るような早くて正確なボールを両サイドバックに提供する事で、相手にポジショニングを修正させる時間を与える隙も許さぬままフィニッシュまで持ち込むきっかけとなっていたのだ。

ワトフォード戦では、両サイドバックは相手のサイドハーフに徹底的にマークをされており、かなり手を焼いていた。そして味方からのサイドチェンジで余裕がある状況でのボール供給も多くなく、クロスを上げるとしても相手からプレッシャーのかかった余裕の無い状況が殆ど。自ずと質は落ちてしまい、直接チャンスに繋がるようなサイド攻撃は最後まで展開できなかった。

クロップが潰してしまった唯一の打開策

試合の途中で、苦しむリバプールへ救いの道筋が見えた場面があった。52分でのシーンである。ファン・ダイクが高い位置でボールを受けて縦へのスルーパスを供給し、抜け出したロバートソンがニアへのシュートを選択。惜しくもゴールには至らなかったが、全体的にポジショニングを高く取ってインサイドハーフが相手ライン間に侵入し、相手が釣り出された事で生まれたチャンスだった。

前述した様に、このポジショニングは後半開始から続けられていたものだった。クロップがハーフタイムで修正をしたのだろう。このチャンスの直後に失点をしたが、この修正を辞めることはなく、ライン間で脅威となれるララーナを投入して状況を打開しようとした。そして、より数的にも優位となる為に中盤のチェンバレンに変えてフォワードのディボック・オリギを投入。左サイドハーフにポジションを取り、4-2-3-1にフォーメーションを変更したのだ。

筆者はこのシステム変更がララーナ投入よりも先に出るべきだったと考える。変更に合わせる形でララーナがボランチを務めることになった訳だが、オリギの投入とシステム変更でライン間での優位を作れる形にはなったものの、ララーナはボランチとして、ライン間への攻撃を展開できる役割を務めきれなかった。彼は元々中盤からパスを捌いて攻撃のリズムを作るような選手ではない。個で打開する、もう1列前の選手だ。この状況であればワイナルドゥムやチェンバレンの方が求められる役割を果たせただろう。珍しく、指揮官の判断への焦りが垣間見得る瞬間だったのかもしれない。

今後への可能性

3試合振りの出場となった南野拓実のパフォーマンスは、唯一今後のリバプールにとって新たなオプションとなりうる可能性を感じさせるものだった。後半34分からロベルト・フィルミーノに代わる形でトップ下を務めた日本代表は、彼の最大の強みであるライン間でのプレーを積極的に続けた。

これといったチャンスは作れなかったが、ライン間で奔走したことによって複数の相手が釣り出され、各ポジションでのスペースが生まれやすくなり、攻撃に徐々にテンポが出来ていたのだ。南野も随所で顔を出して組み立てに参加していたが、今まで出場した試合の中で1番と言って良いほど違和感の無い、チームに馴染んだ自然体でプレー出来ていた様に感じる。

ワトフォードのリバプール攻略で、今後同様の戦術を取る相手はより増えていくだろう。そしてヘンダーソンが離脱して以降の数試合の低調ぶりが、より顕著となってしまった。これから中2日でチェルシーとのFAカップ5回戦が控え、1試合挟んでアトレティコとのチャンピオンズリーグ、セカンドレグが待っている。精神的支柱でもあるキャプテンを欠く中での連戦、ワトフォード戦の二の舞いは是が非でも避けなければならない。クロップ、そしてチームはどのようにこの敗戦と向き合っていくのか。早くも世界王者の真価が問われる最初の壁を迎えた。

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