【学生Fエンジン開発】アイドリング対策

先週の記事の続きです。

 バイク用エンジンを使って、学生フォーミュラのレギュレーションを遵守した給排気系を実現した時、アイドリング不安定に陥りやすい事をお話しました。
今週は、アイドリング改善のための対策案をいくつか述べたいと思います。
 なお、学生フォーミュラ車両で試した経験は無いため、あくまで技術的には効果があるという内容です、ご容赦ください。


・燃料を薄くする

 市販車の場合は排ガス規制が存在するため、原則、三元触媒が有効な理論空燃比で燃焼させる制約があります。例えばエンジンの出力を10%に絞りたい場合、空気量も10%に減らす必要があります。学生フォーミュラ車両には触媒も排ガス規制も存在しないため、空気が過剰な状態でも構わないわけです。
 スロットルバルブ下流容積の負圧問題は、スロットルバルブを開く事で解消出来ますので、アイドリング時の吸入空気量を少し多く調整し、燃料噴射量を調整することで回転数を合わせます。ECUの適合値を弄るツールは必須で、AFRセンサで空燃比を確認しながら作業した方が良いでしょう。単気筒、多気筒どちらにも適用でき、ハードウェアを変えずに対応出来るので、一番推奨したいやり方です。

・カムのワークアングル変更

 川崎重工の本田さんの記事にもあったように、チームでカムを自作することは難しいため、カムの位相をずらすことでオーバラップを減らす方法です。作業要領も本田さんの記事で詳しく述べられています。トルクカーブが低回転側に移ることや、バルブがピストンに衝突しないかの確認が必要など、ケアすべき点は多く、労力と効果を考えると優先度低めかなと個人的には思います。

・過給する

 過給の本来の狙いは吸入空気量の増加です。リストリクタで制限される空気量の制約を超える事で、高回転高負荷領域の出力アップが期待できます。ここではレイアウトの違いにのみ注目します。
 学生フォーミュラのレギュレーションは、過給機の有無で吸気系レイアウトが異なります。過給機付きの場合、下図のようにリストリクタ→過給機→スロットルバルブの順番になり、スロットルバルブをエンジン直近に置くことが出来ます。つまり、スロットル下流容積を減らす事ができ、低負荷での過給の有無に関わらずアイドリング安定性は改善する構成になります。特に単気筒であれば、純正エンジンと同じ位置にスロットルボディを設置する事ができるので、アイドリング安定性向上が期待できます。

Formula SAE レギュレーションより引用

 極端な話、スロットルバルブの位置を本来のバイクエンジンと同じにしたいがために、全く過給しないなんちゃって過給でも良いのではとすら思います。過給機は回らず常時Recirulation valve全開でそこから吸った空気でNA運転、はさすがにNGでしょうか?
 過給の本来の効果などを深掘りすると話が長くなりそうなので、別テーマで後日書ければと思います。

・補助スロットルを付ける

 4気筒600ccエンジンで、市販車の純正スロットルは補助スロットルと称して元の位置に残し、これを吸気系の最上流に別途設けたスロットルバルブと連動して動くようにしたケースが過去にありました。スロットル開度が小さい低負荷域においては、実質純正仕様と同じスロットル下流容積となるためアイドリング安定性は改善し、アクセル操作の応答性も良くなるはずです。
 このときは、「スロットルバルブの下流に駆動デバイスはレギュレーション違反」と判断されました。「スロットルと連動して動くならそれはスロットルバルブでしょ」と言われれば妥当なジャッジかと思います。
 過去にレギュレーション違反となったアイデアですが、例えばアクセルとは別の操作系統にして、「キャブレターでいうチョークです。走行中は操作できず、始動時にしか使えません」のような構成が許されるのであれば、アイドリング対策の1つになるかと思い、アイデアの1つとして書き残しておきたいと思います。

まとめ

 今回は以上です。アイドリング不安定などのトラブルに関するノウハウを共有することで、各チームが学生フォーミュラ本来の醍醐味である、車両を速く走らせるための開発に注力出来れば幸いです。
 またいつも記事に対するコメントやリツイートありがとうございます。皆さんの反応が執筆のモチベーションになっています。個別の相談や取り上げてほしい内容等ありましたら、いつでもコメント頂ければと思います。

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