本編ttl序章001

少女十勇士 見参!! 序章 ―猿飛佐助―

 慶長二十年五月七日。世に言う大坂夏の陣。ところは大坂城天守閣。
 その最上階で真田大助幸昌は豊臣軍総大将、秀頼の傍に付き従っていた。
 本当は天王寺で父幸村と共に最後まで戦いたかった。だが、父から秀頼様をお護りしろと命を受け、大助は今ここにいる。
 父幸村は退却中に茶臼山で戦死したととうに報せがあった。
 その秀頼の傍らには千姫がいる。いずれも死装束である。姫の侍女が二名従っている以外、他の近従はすべて階下に下がらせていた。
 二の丸の火の手が、天守からも見えていた。
“いよいよ豊臣の命運も尽きるか”
「倉木昭定様、討ち死に!」
 もう数えるのも忘れた戦死報に秀頼は言う。
「この上の報告は無用じゃ。左衛門佐亡き今、誰が生きていようとて戦局は変わるまい」
 父の名に顔を上げた大助に秀頼は言った。
「すまん、大助。御父の忠義に報いれぬ余を許せ」
「もったいのうございます」
 そこへ嬌声とも悲鳴ともつかぬ声を上げ現れた者がある。今の今までどこを徘徊していたのか、秀頼と同じ死装束の淀様が髪振り乱し階下から上がってきた。
「和議じゃ!たれそ家康をここに呼んで参れ!」
「お方様!お静まりくだされ!」
 後についてきた大野治長が必死に宥めようとしている。
 この期に及んで講和もあるまいに。秀頼は冬の陣の折りに砲弾に怯えて途端に講和を言い出した、同じ母の姿を重ねていた。
 ほんの数刻前、「辱めを受けるよりいっそ母子揃いて見事自刃遂げようぞ」そう言って秀頼を天守に誘った筈の同じ舌で「和議」を口にする醜態であった。
 淀は千姫にも縋りつく。
「のう、お千。お前様からお爺様にお慈悲を請うてくりゃれ、後生じゃ!」
「母上、おやめくだされ。情けのうございまする」
 秀頼は深く息をする。
「わらわは己が命惜しさに言うておるのではないぞえ。全ては秀頼、お前を生かさんがためぞ」
 既視感で秀頼は目が眩みそうになった。東軍の士気を上げんが為、左衛門佐が秀頼に出陣を願い出た折にもこの母は同じ事を言った。
「もう沢山じゃ」
 秀頼は大助を見る。その心が判り、大助は恭しく両手で大刀を掲げ差し出した。秀頼は鯉口を切り、刀を抜き放つ。
「母上様、御免!」
 秀頼の剣は横一文字に母の腹部を斬り裂いた。そして振り返り手を伸ばす淀を振り向き様に袈裟がけに斬り倒す。
「若君、何を!」
 駆け寄る大野修理は大助が一刀両断にした。
「殿!」千姫と侍女達が目を見張った。
「……こうするのが遅すぎた」
 秀頼は歯噛みしながら天を仰いだ。
「思えば、いかなる場面にても愚かな道を選び続けた母だった。修理など戦知らずを重用し、徳川に口実を与え、あまつさえ名将を軽んじる愚行。豊臣を滅ぼしたのは誰あらん、我が母その人に相違あるまい。そして、判りながら止められなんだ余自身だ」
 秀頼は大刀を大助に渡し、再び腰を下ろした。
「来たか」
 秀頼がそう呟くように言うと、天守楼閣に小さな影が現れた。猿飛佐助である。
「佐助、首尾は」
「坂崎出羽守、たった今天守に入閣のよし。間もなく夕霧と合流するでしょう」
 それを聞くや秀頼は脇差しに手を伸ばし、躊躇い無く腹を割っ捌いた。
「大助、後を頼む」
 大助は涙ながらに介錯をした。
「秀頼様、わらわも参ります」
 千姫が後を追い懐剣を喉に突き立てんとすると、佐助が扇子で懐剣を叩き落とし、次いで手刀がその襟足を打った。
 すると、昏倒する千姫を佐助が抱き抱えるその隙に、今度は大助が刀で己が胸を突こうとした。だが、左肩に千姫を抱えた佐助の右腕が大助の両手首を掴んで止める。
「おやめくだされ」
「離せ、後生じゃ」
 小柄な身体に似合わぬ大きな手と握力で、大助の両腕は微動だにしない。
「佐助、千姫様はお主が。儂は秀頼様の下へ逝く」
「心得違い召されるな。幸村様はなんと仰せになられた」
「……秀頼様を御護りせよ」
「ならば、秀頼公の御胤を宿した千姫様を御護りするのは誰の役割ぞ」
 大助はハッとなる。それは己の使命の自覚とと千姫の懐妊の双方への気づきからだった。
「千姫様を護る大助様を御護りするのが我が務め」
 そう言って佐助は千姫を肩に担ぎ、大助と千姫の侍女を伴って裏手より既に火の手が上がった天守閣を後にした。
 そこへ二つの影が合流した。由利鎌之助と三好伊佐入道だった。
「上手くいったか?」
 佐助が訊くと鎌之助が自信満々に言う。
「誰に言う。連中め、儂と伊佐を秀頼公と淀様と思うて、山里丸を取り囲んでおるわ」
「見つからずに逃げ仰せただろうな」
疑う様に言う佐助に「こちとら婆の扮装までしたんじゃ。騙されてくれんと割に合わんわい」と伊佐が愚痴る。
「例の件は?」
「坂崎出羽め、顔に火傷を負いながら千姫を火の中から救出しおったぞ。偽者とも知らんでのう」
 千姫様すり替えの作戦は上首尾だったようだ。これは本物の千姫を脱出させる為の時間稼ぎにもなっている。
「救出の褒賞は千姫様との婚姻だそうな。気の毒に」
「それは出羽がか。夕霧がか?」
「もちろん、夕霧の方だろう。才蔵も妹御に酷な役目をさせるものよ」
 三人の勇士は高笑いをする。その背後で山里丸にも火の手が上がった。伊佐と鎌之助の仕掛けた発火装置によるものだ。これにより、戦死者をそうと見せかけた偽の秀頼と淀の正体がばれぬよう、焼き尽くしてくれるはずだった。その火を合図に鎌之助と伊佐は佐助達と別れた。
 燃え盛る大坂城を後に、千姫を担いだ佐助、大助、千姫の侍女菊と己代の五人は真田丸跡を目指した。
 冬の陣において出丸であったそこは、夏の陣においては最終決戦の主戦場天王寺の只中にあるが、落城の今、徳川勢の目は大坂城に惹き付けられかえって盲点となっていた。
真田丸は築城の際にその地下に脱出路が設けられており、真田丸自体が解体された今もそれは生きていた。
「着きましたぞ」
 そこここに転がっていた戦死者や騎馬の死体、打ち捨てられた矢盾などが良い隠れ蓑になり、一行はどうにか真田丸跡に到着出来た。佐助に背負われていた千姫も行軍の過程で気が付き、自らの足で歩いて来ている。
 古井戸に見せかけた脱出路の入り口に到達した時である。無数の手裏剣が一行を襲った。
 逸早く佐助は盾になるように立ち塞がり、腰の刀を抜くや手裏剣を全て叩き落とす。
「ここは拙者が。大助様は千姫様と早く!」
 千姫からまず井戸を縄梯子で降り始める。本当なら誰かが先導すべきだが、まずは身を隠せる所に姫を真っ先に行かせる方を優先させた。それを見届けると、佐助は手裏剣が飛んで来た方向に一目散に駆け出した。
 しばらく進むと、その佐助の後を追う者があった。千姫の侍女、己代である。
「お己代殿、いかがされた?」
「私めもお連れ下さいまし」
 己代は真剣らしかった。しかし、と佐助は思う。
「千姫様のお傍を離れては……」
「お菊が残っております。大助様も曲者が多勢であったなら佐助様が苦戦なさるやもと…」
「しかし、危のうござろう。ましてや丸腰では」
「武器ならござりまする」
 己代は袂から懐剣を取り出して見せた。佐助が首を横に振ると、己代は懐剣から鞘を抜いて柄に差し込んだ。次に袖から鞘と似た平たい筒を取り出すと、五段の入れ子になっているそれを引き出し伸ばして懐剣の鞘に繋いだ。あっという間に組み立て式伸縮薙刀の出来上がりである。
「筧殿に作っていただきました」
「十蔵が?」
 彼奴め余計な事を、と佐助は舌打ちした。確かに己代は薙刀の名手ではあった。それで着物に隠して携行出来る薙刀を、と筧十蔵に頼んだらしい。十勇士の特殊武器の製造開発を担う十蔵が、長巻に着想を得て作り上げた物だった。しかし、あまりに無茶に過ぎると佐助は思う。
「どうなされた。日頃聡明なお己代殿とも思われぬお振る舞い。佐助を困らせんでくだされ…」
「お困りになりますか」
「なります」
「でも私、佐助殿をお慕い申し上げておるのです」
 突然の告白に佐助は目を丸くした。だが、己代の瞳はそんな佐助の胸の内を射抜くかの様に、真っ直ぐな光を湛えている。
 佐助は恭しく、真っ正直に答えた。
「お己代殿の様なお方が儂ごときを好いて下さっているとは、不覚にも今日まで存知上げませなんだ」
 今度は己代が目を丸くする。その鈍さと馬鹿正直さには呆れるを通り越して驚くしかなかった。
「本当にご存知なかったのですか?」
「いかにも。この猿飛佐助、天下一の忍術使いと自負しておりますが、まこと女人の心はいかな忍法でもはかれぬものですな」
「それは、佐助様が鈍いだけです」
 佐助は頭を掻いた。掻きながらいきなり己代の体を抱くとひょいと飛び上がる。空気を裂く音と共に地面には手裏剣が三本突き立った。
「ここは危のうござる。戻られるが良かろう。お己代殿の本分を思い出されい」
 千姫の下へとそう己代に促すと、佐助は踵を返した。そして振り返らずに言う。
「儂の様な山猿に過分なお情け、勿体のうござる。必ず生きて戻るゆえ、その時は……」
 全てを言い終わらぬ内に佐助は再び駆け出した。

 敵は明らかに誘っていた。佐助の足元に連続して手裏剣が刺さる。到達する角度からして敵は同じ間合いを保って移動している。
 ならば、と佐助は全くあらぬ向きへ方向転換した。と思う間もなく全く逆方向に走り、上下左右四方八方にと縦横無尽に空間を飛び回った。そしてフッと掻き消える。
 遅れること半秒、佐助の消えた空間に手裏剣が飛んだが、それを最後に辺りは静まり返った。
 程近く、冬の陣夏の陣の間も変わる事なくその地にあった一本杉。その中腹辺りの枝葉の間から飛び出した影があった。地面に降り立ったその影は脇腹から血を流している。
 その者こそ服部正就。三代目服部半蔵その人だった。
 同じ杉の木からもう一つの影、佐助が跳躍し同様に地に降り立った。服部半蔵の目前、二間半程の距離を空けて対峙した。
「やはり半蔵、お主か」
「猿飛……」
 血走った眼で半蔵は佐助を睨んだ。
「お主、儂の動きに惑わされまいと一箇所に留まっただろう。それが敗因じゃ。忍びは千変万化、止んでは吹く風の如し。根っからの忍びでない者にはこれが限界かのう」
 半蔵は佐助に斬られた脇腹を押さえた。
「おのれ……貴様らさえおらなければ……」
「笑止。お主が改易になったのは己の人望の無さ故の事。我らを恨むはお門違いじゃ」
 三代目服部半蔵は伊賀同心の同盟罷業によって、同心組支配の座を追われたと伝えられている。
「吐かせ。貴様らさえ葬れば返り咲くのも夢ではない」
「この戦に参じたのはそのためか。つまらんな」
「貴様らこそ無駄なあがきはよせ。天下は既に徳川のものよ。この現実は動かぬ」
「そんな事は解っておるわ」
 半蔵には訳がわからなかった。彼には大勢に付く、時流に乗る以外の選択肢はありえないのだった。
「貴様、何を考えておる。先刻、出城跡に千姫様と共におったな。ならば、あの、坂崎出羽が担いでいた千姫、あれはなんだ、あれは誰だ!?」
 半蔵にしてみれば、出羽守に救出された筈の千姫を再び見た不可思議という事になろうか。無論、どちらかが替え玉でありいずれかが囮という事に気付かぬ半蔵ではないが、それが何の為かが問題だった。
「さあてな、他人の空似ではないかのう」
 佐助はとぼける。半蔵はハッと気付いた。
「そうか!御落胤か!」
 佐助は答えない。
「……馬鹿な、それを奉じて豊臣の再興を企むか!」
「儂は知らぬよ。ただ、幸村様の命に従うとるだけじゃ」
 嘘は言っていない。「幸村様の深いお考えは儂ごときには判らん」というのが真田の家臣としての猿飛佐助の在り様だったからだ。
 だが、思うところはある。
 秀頼様の御落胤が成長を遂げられたとして、おそらく豊臣の再興は叶うまい。それが出来るなら、秀頼様を奉じた此度の戦は勝利していただろう。更に味方する将兵が少なくなるであろう将来において、それこそ夢のまた夢だ。
 しかし、もし秀頼の子が生きていたなら、それだけで家康の心中は安らかではおられないだろう。なぜなら家康公は、あの竹千代君は、その半生を人質として生き永らえ、その上で天下人となった人間だからだ。人は自身を基準にものを考える。自分に出来て秀頼の子に出来ぬ理はないと、家康なら考える筈だ。ならば、秀頼の子は生きているただそれだけで家康の不安を煽るに充分な存在だろう。
 同様に蟄居で済ませたが故に何度も自身を苦しめる事になった真田幸村の、その一子と家臣が落ち延びたという事実は、知らしめるだけで家康を苛む筈だ。
だが、その芽を摘む事のできる現在、まだその事を家康の耳に入れてはならぬ。
「生かしてはおけんのう」
 それは己の呟きか、はたまた敵の心中の言葉か。佐助と半蔵が双方ともに思っていた。
 佐助と半蔵は刀を抜き放ち、相手に向かって駆け出していた。交差したその一瞬で勝負は決するだろう。距離がおよそ一間となったその時、地面を蹴って跳躍しようとした佐助のその脚を掴む者があった。土遁の術で地中に潜んでいた半蔵配下の下忍、土竜だった。
 一方の半蔵の体はその瞬間宙に踊り上がっていた。動きの止まった佐助を上方からの太刀が狙う。
「儂に従う配下が一人もないと、思い込んだが貴様の愚かさよ!」
“勝った!”半蔵は勝利を確信した。
 それは捨て身の作戦であった。隠身の術においては猿飛に敵うべくもない。ならばと半蔵はそれを逆手に取った。一度は背後を取られるだろう。しかしその後に配下の土竜が地に潜む付近に猿飛を誘い出し一騎打ちに出る。目撃した千姫についての疑問を糺したのは、思惑を確かめる意味もあったが、同時に地中を掘り進む土竜を配置につかせるための時間稼ぎでもあった。しかし……。
「佐助様ーっ!!」
 絶叫と共に、佐助の脚を掴んだ土竜の両腕は真一文字に切断されていた。佐助の言いつけを守らず、ずっと潜んで後を追って来ていた己代の手によって。あの携行型薙刀がその威力を発揮したのだ。
 一度宙に飛び上がったところで制動がかかり、再びそれが解かれた佐助はつんのめるように頭から地面に落ちて行った。咄嗟に佐助は刀を口にくわえると両腕を屈曲させ、両手で地面を蹴る。とんぼを切るがごとく跳ね上がった佐助は、半蔵の腹部を下からほぼ垂直に蹴り上げた。勢いを止められずに半蔵の剣は、佐助ではなく腕を失った土竜を斬ってしまう。

 半蔵、佐助、両者は共に体勢を崩して地面に転がった。だが、受け身から攻撃に転じねばならなかった半蔵より、一瞬早く体を立て直した佐助が勝っていた。逆手に振るった佐助の剣で半蔵の喉笛は斬り裂かれた。
 絶命の瞬間、服部半蔵正就のその首は笑った様に見えた。
「お己代殿、何という無茶を!」
 駆け寄った佐助は思わず己代を抱きしめた。だが、直ぐ様その肩を掴み体を引き離す。
「千姫様、大助様はご無事か!?」
 と言っても、あのまま佐助を追って来た己代に答えられる筈はなかった。
“しまった!”
 先程の半蔵の笑いが気になる。そして彼奴は何と言っていたか。護るつもりでまんまと誘き出されたと、佐助は己の失態を恥じた。
 己代と共に佐助は一目散に真田丸跡の古井戸に戻った。
「大助様!」
 真田大助は井戸を背にもたれかかり両脚を投げ出していた。肩が上下し荒い息をしている。
「やあ佐助、遅かったではないか。おかげで骨が折れたぞ」
 大助の周囲には七体の男の死体が転がっていた。やはり懸念した通り、半蔵は自らを囮に手下を襲撃に向かわせていたのだった。心配げな顔をした千姫と菊が抱き合う様にして井戸から顔を出している。
「……これをお一人で?」
「こら佐助。余を誰だと思うてか。名将真田信繁が一子、大助幸昌なるぞ」
 膝を立てて上体を起こしながら大助はふざけた君子調に言い、皆の笑いを誘った。佐助は己代を窘める。
「だからあの時、儂は戻れと言うたのだ」
「申し訳ありませぬ」己代は身を竦める。すると、いつの間にやら梯子を上り井戸の縁に腰を下ろした千姫が今度は佐助を窘めた。
「佐助、あまりお己代を叱りたもうな。わらわが行けと唆したのじゃ」
「まさか、姫様が?」
 佐助は心底驚いていた。これには千姫もため息を漏らす。
「ほんにおなごの気持ちの判らぬ山猿じゃ。お己代、こんな朴念猿に嫁いだら気苦労が絶えぬわえ。考え直すなら今じゃ」
「ぼ、朴念猿ぅ?姫様、お口が過ぎまする」
 千姫は声を出して笑った。
「こんな暢気な落人もあるまい。のう大助、人は不思議なものよの」
「はい、姫様」
「わらわは先刻まで秀頼様の最期を嘆いておった。呪っていたと言っても良い。大御所様の孫に生まれ、豊臣家に嫁いで来た縁までをの。けれど、今はこうして笑うておる」
「左様ですな」
「佐助」千姫は今度は佐助に尋ねた。
「これからのこの国はどうなって行くのかの?」
「一介の忍びには判じかねますが……案外、泰平の世になるやも知れませぬ」
「ほう、何故じゃ」
「家康公は気の長い御仁でござれば」
 佐助の皮肉に千姫は微笑んだ。
「わらわ達をこれだけ苦しめて為した徳川の御世、せいぜい見届けてやろうかの」
 千姫、大助、己代、菊、佐助の五人は古井戸の脱出口から神戸方面に抜け、以後、長い旅を続け九州方面に落ち延びたという。
 他の十勇士の命運はどうなったのか。千姫に成り代わったくノ一、夕霧の行く末は如何なるものか。それはまた別の物語である。

 そして、これより四百年余の後、末裔たちの物語が始まる――。

  ―つづく― (本文・イラスト:暮代 樹)

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