藤井 樹

日々思ったことや、創作活動を主に行なっていきたいと思います。書き起こすことによって何か…

藤井 樹

日々思ったことや、創作活動を主に行なっていきたいと思います。書き起こすことによって何か得られたら最高

最近の記事

【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.32(完)

〜甘い後日談〜    寂れた道を散歩しているのは、トレードマークの大きなまん丸の帽子を被った魔女でした。  そよ風に揺れる木々から漏れ出る木漏れ日に、まん丸のメガネをキラキラと輝かせています。  鼻歌を歌い上機嫌に歩いているその魔女はどこを目指しているのでしょうか。  時折通り過ぎる人々は皆、なんだか頬を緩め幸せそうな顔をしています。  錆びついた門が傾く家の角を曲がり、緩やかな坂道を登っていくと、そこには小さな公園がありました。 「シニー、後ろ!見てみろよ!」  右肩に乗せ

    • 【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.31

      〜さよなら幸運のピエロ〜  「それじゃ、準備はいいかしら」  シニーはふぅっと息を吐き、ゆっくりと振り返ります。  シエロたちは今、シニーのお家がある『魔女の浜』カロンにいました。  砂浜に描かれた少し歪な魔法陣の中に立つシエロとルーフェは、手を取り合いゆっくりと頷きます。 「これで道化とはおさらばね」  ニヤリと笑うシニーはちょっぴり淋しそうな様子です。 「もう十分さ」  シエロもどこか淋しげな表情を浮かべましたが、さっと顔を上げると笑顔で言いました。 「

      • 【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.30

        〜愛情は最高のスパイス〜  「シエロ⁉︎」  パタムールが慌ててシエロの方へと飛び寄ります。  シエロはうう、と弱々しく胸を抑えうずくまっています。  突然の謎の男の登場にルーフェたちは呆然と立ち尽くすしかできませんでした。  不愉快な笑い声をあげたその男は、ニヤニヤとイヤらしい笑みを顔に貼り付けたまま上機嫌に話を始めました。 「これはこれは。かの有名な幸運のピエロさんじゃないか。君も随分と綺麗な顔をしているらしいね。ハンサムなピエロに美しい女性が二人。それに、あ

        • 【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.29

          〜幸運のピエロが現れた〜  「どれも美味しいわね、勉強になるわ」  こんな状況だと言うのに、ウカおばさんは元気に冷蔵庫に収められていたモンブランに舌鼓を打っています。  この部屋に連れてこられてからどのくらいの時間が経ったのでしょうか。  窓もなく、変化のないこの部屋では時間の感覚が狂ってしまいます。  囚われた時、初めは恐怖や不安に押し潰されそうになっていたルーフェではありましたが、ウカおばさんのあっけらかんとした様子にすぐに緊張はほぐれ、今ではやることもなくただ

        【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.32(完)

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.28

          〜マーマレード・ボム〜  「はい、これ」  シエロの両手は山積みになった得体の知れないものたちで溢れかえっていました。  その山のてっぺんにシニーが最後の一つをちょうど乗せたところでした。 「こんなにたくさん・・・どうしろと?」  ゴロリ、と一番上に乗せられたオレンジ色の球体が床に転がり落ちました。 「ちょっと!気をつけてよね。爆発したら危ないじゃない」  何やら物騒なことを口走る老婆に、シエロは呆れたようにため息をつきました。  かれこれ三時間は経ったでしょ

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.28

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.27

          〜隠し味を忘れずに〜  「おっ!帰ってきたぞ」  木に寄りかかりうとうとと小舟を漕いでいたシエロは、パタムールの声でハッと目を覚ましました。  とぼとぼとこちらへ向かって歩いてくる老婆はひどく疲れているように見えます。  まるでそれはシニーの変装ではなく、本物の老婆のようです。 「よかった、無事で」  はぁっと深いため息をつき、ふらふらと手を振り回し椅子やら傘やらタバコやらを取り出した老婆はゆっくりと腰を下ろすと、またもや深いため息をつきました。 「どうだった?

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.27

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.26

          〜甘く優しいひととき〜   レタシモン卿は一人、自身の書斎にこもり恍惚な表情を浮かべていました。  いつものようにお気に入りの蓄音機から流れてくる音楽に耳を傾け、右手に葉巻、そして左手にはワイングラスが握られています。  まるで何か偉大なことを成し遂げたかのように、いるはずのない誰かに向かって左手を掲げたレタシモン卿は、とても満足げな表情を浮かべています。  突然の来訪に、最初はまた面倒なのが来たと内心苛立っていたのですが、蓋を開けてみるとそこにはまるでピーナッツバタ

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.26

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.25

          〜魔女の掌の上で踊る悪魔〜  「部下が失礼を。どうぞこちらへ。ラズベリーパイはお好きですか?」  シニーは長身の男に誘われるままに、趣味の悪い絵画の飾られた廊下を抜け、客間と思われる部屋へと通されました。なんとも豪勢で下品な出立ちの部屋でした。  間違いない。こいつがレタシモンだ。  シニーは心の中で思いつく限りの悪態を吐きました。  なんて言ったかはご想像にお任せします。 「ま、まぁ。ご丁寧にありがとうございます。あぁ、光栄ですわい。レタシモン様が直々にお出迎え

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.25

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.24

          〜バカンス日和の悪魔〜 「ここね」  広大なメリゼル砂漠の最果てにはなんと、小さいながらも心地の良い開放的なビーチがありました。  無数に生い茂る大きな木を抜けると現れる美しい浜辺はまさにオアシスです。  浜辺のすぐ目の前には巨大なガラス張りのお金持ちの別荘のような建物が一軒、楽しげに佇んでいました。  魔法を扱う者たちは皆、ビーチというものを好むのでしょうか。  シニーの家がある魔女の浜『カロン』を思い出し、シエロは一人心の中でニヤつきます。  シエロたちは魔

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.24

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.23

          〜心臓喰らいの隠れ家〜  モコモコとした悪趣味な毛皮を羽織った男は、真っ赤な革張りの高級な椅子に腰かけ優雅に葉巻を吸っていました。  撫で付けられた真っ黒な髪は肩にまで達しており、またその瞳は知的な光を放っています。  古く趣のある蓄音機から聞こえてくるのはいつの時代のクラシックでしょうか。  その男は満足げに葉巻の煙を燻らすと、ガチャリと開いた扉の方を振り返ることはせずに微笑みました。 「いやー、貴方は素晴らしい。今までの愚かな奴らとはやはり違いましたね。さすが、

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.23

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.22

          〜極上のおもてなし〜 「こちらへどうぞ。さぁ、早く!」  ルーフェとウカは、ディアボロ伯爵が操っているであろう得体の知れない黒い人影に担がれて、なんだかひどく豪勢な部屋の中へと通されました。  大きなキッチンには高級そうな茶器が美しく飾られており、またいかにも高級そうな家具や置物が部屋の中には揃っています。  足元の絨毯から伝わる柔らかさなんてまるで王宮にでも通されたかのようです。  ここはどこなんだろう。あの黒い影は?伯爵は魔法使いなの?  部屋へ通されると二人

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.22

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.21

          〜歪んだレシピ〜  小さな小鳥の背中を追いかけてシエロたち一行はすでに、街を抜け平原を越えてメリゼル砂漠上空を飛んでいました。  箒に乗って空を飛ぶということはなんとも刺激的で、案外慣れると心地の良いものです。  それにシニーが魔法で寒さやら風やらを和らげてくれたので快適に飛ぶことができます。  上空から見る街や森は見ていて壮観なものではありましたが、一度砂漠に立ち入るとどこまでも続く砂の平原ですぐに退屈してしまいました。  夜の砂漠はひっそりと佇み、寒々しい風がビ

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.21

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.20

          〜不協和味〜 「うぅ・・・」  ぼんやりとした意識の中、寝ぼけまなこを瞬かせたルーフェは、自らが置かれている状況にハッと気がつき目を覚ましました。  ガタガタとゆっくりと揺れる床の上。そこは、どうやら馬車の荷台のようです。  両手足を縛られ、口には詰め物がされています。  何が起きているのでしょうか。  ぼんやりとする頭を抱え、直前に何があったかを思い出すことができませんでした。  ルーフェを乗せたその馬車はガタガタとその身を震わせながら、どこか目的を持って走っ

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.20

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.19

          〜道化の凱旋〜 「うわっ。・・・なんだこれ!」  ゲホゲホとむせながらシエロが悪態を吐くのを、老婆と木の人形はゲラゲラと笑って見守っていました。  彼らは今、首都ラティリアの隣接する街『ラプリナ』へと辿り着いていました。  たくさんのお菓子工場があるこの街は、たくさんの労働者で溢れかえっています。  通りを行く人々は、だらしない酔っ払いを見るような蔑んだ視線をシエロに投げかけながらさっさと通り過ぎていきました。  そしてシエロはたった今、シニーからもらった怪しげに

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.19

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.18

          〜古き良き時代の香り〜 「あの、どちらまで行かれるのですか?」  ディアボロ伯爵に連れられて、早々に店を後にしたルーフェはラティリアの中心街を抜け、今ではすっかりと寂れてしまった旧市街の方まで来ていました。  段々と人気がなくなり、夕刻が近づくその道はぼんやりとしています。  宵の近づく空にはコウモリが飛び回り不気味な雰囲気が漂います。  なんだかルーフェはほんの少しだけ怖くなりました。  まるで子供の頃に戻ってしまったかのような気持ちです。  そんなことはつゆ

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.18

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.17

          〜仮初めの甘い時〜  モクモクと煙の立ち登る街『ラプリナ』を見下ろして、クラクラとする頭を抑えていたのはシエロでした。その先には首都『ラティリア』がありますが、ここからでは小さすぎてよく見えません。  それはさておき、あの立ち昇る煙はドーナツ工場からでしょうか?  なんとも悩ましげに、味しそうな煙がモクモクです。  彼らは今、『リプレスラ』と呼ばれる郊外の町に辿り着いていました。  シエロのお家があるモックショートの谷を抜けるとすぐに見えてくる小さな町で、この町では

          【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.17