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豊田道倫 & mtvBAND/あらかじめ決められた恋人たちへ@O-nest/20150829

「豊田道倫&mtvBAND」と「あらかじめ決められた恋人たちへ」の、“北大阪先輩後輩対バン”とでも言うべきツーマンが、O-nestで。『TOKYO BLOODS 2015 』と名付けられたこのイベントは、豊田道倫(パラダイスガラージ)のレコードデビュー20周年を記念して企画されたもの。あら恋を招聘するそもそものきっかけが、今年の正月に豊田さんと池永さんが大阪・千里中央駅で遭遇したことにあるという不思議な縁。南大阪出身で、主に遊びに行く繁華街が「なんば」だった身からすれば少し疎外感を覚えたものの(※注)、「難波ベアーズ」、「あんにょん由美香」、「東京の恋人」といった、二組の共通項を頭に思い浮かべながらライブを体感した。

※注 北大阪と南大阪では大きく文化圏が違うのデス

両者に類似性を見出すとするならば、共にサウンド面での変化を恐れないところ、そしてその結果として洗練と混沌が歪に入り混じった“ノイジーさ”が立ち上るところだろうか。加えて、楽曲の芯である旋律が「豊田さんのボーカル」と「池永さんの鍵盤ハーモニカ」という強烈な個性から発せられることで、どんなに都会的な質感に包まれようともあたたかな人間味が感じられるところだ。

磨いても磨いてもホコリが取れない原石というか、精密に描かれているけれどフチが欠けている絵皿というか――ダメな部分や汚い部分にフタをするのではなく、それらと真摯に向き合うことで生まれる“血の通った”音が中心で鳴っている。だからこそ、豊田さんの声も池永さんの鍵盤ハーモニカも、どんな轟音やノイズに囲まれても叙情的に、センチメンタルに響いていくのだろう。そしてそれが、まったく替えの効かない魅力であり、愛おしさがある。

mtvBANDの奔放なスタイルも良かった。久下さん宇波さんから繰り出されるリズムは楽曲に推進力を、鋭く尖る冷牟田さんのギターは緊張感を形成。豊田さんのボーカルはそこに乗っかったり後ろに下がったり敢えてかき乱したりしていて、その無邪気さと躍動感が胸に迫った。
部屋でよくひとりで聴いていた「友達のように」が弾き語りで聴けたのも嬉しかった。豊田さんのギターの音色はいつだって染みる。

さて、あら恋についても。ドラマーにGOTO(DALLJUB STEP CLUB)、キーボードにベントラーカオル(クウチュウ戦)を迎えた新体制になってから、まだ日が浅い彼ら。しかしながら、「前日」「ワカル」以外は新曲で攻めるチャレンジングなセットリスト。オープニングが豊田さんのカバー「新しい仕事」であるのにも何やら意味を感じるほどだ。

新体制になって何が大きく変わったか、と言われれば、まずは音響面。PAが交代したこともあり、キーボードやテルミン、手数の増えたドラムの緩急や繊細なタッチが立体的に聴こえるようになり、巧みに整理されていた。一方でサウンドのダイナミクスや、鍵盤ハーモニカと演奏陣の一定の距離感はキープされており、迫力も不変だった。そして何よりも、ところどころで見せる池永さんの咆哮である。やっぱりあれはグッとテンションが上がるし、あら恋が揺るぎないことを感じることが出来た。

ラストの長尺曲、エンディングにノイズパートがあるのだけれど、そこでは大竹くんカオルさんも楽器を片手に暴れまわるシーンが見られた。5月の新体制初ライブのときに比べるとそのアクションには遠慮がなく、ずいぶんとバンド感も増したように思う。また、池永さんが最近よく口にしているダンスミュージックへの接近が、その音からもよく伝わるライブだった。

ツーマンであったものの、あら恋は60分、豊田さんはアンコール含め70分あり、満足度の高いイベントだった。豊田さんがMCでも話していたが、思えばあら恋がバンド編成でのライブを本格化させた2008年に、両者は新高円寺で対バンしている。僕は主催者からの依頼であら恋出演の仲介をしたものの、ライブには仕事で足を運べなかった記憶がある。あれから7年。当時とは音楽シーンを巡る環境も大きく変わってしまったけれど、あら恋、豊田さんともに、淡々とマイペースに音楽活動を続けてきたってことは事実だ。

そして再びの対バン。偶然のような、必然のような一夜に今回は立ち会えて良かったと思う。

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