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Dubbing09@渋谷WWW~あらかじめ決められた恋人たちへワンマンライブ~

最高傑作『After dance/Before sunrise』のレコ発も兼ねた「あらかじめ決められた恋人たちへ」のワンマンライブ「Dubbing09」@渋谷WWWを鑑賞。東名阪ワンマンツアーのラストを飾るライブであり、VJにロカペニス&MICHEL、ゲストボーカルに曽我部恵一、和合亮一が参加。さらに、ラウンジスペースでは写真家タイコウクニヨシの写真展(『After dance/Before sunrise』を聴きながら撮影した風景・人物写真を展示)と、タカラダミチノブによるDJが行われるなど、豪華な内容となった。

諸々調べていたら、少なくとも2003年の『釘』レコ発@難波ベアーズ(VJはロカペニスだったはず)から観ていることが判明したので、およそ13年前(!)から、あら恋のライブを観ていることになる。そんななかでも、今回のライブはまさにベスト、理想のパフォーマンスだったんじゃないかと思う。大阪ソロ時代の、飄々と街をすり抜けていくかのようなセンチメンタリズム、『カラ』~『ラッシュ』期の、密室的なダブの熱狂感、『Calling』~『DOCUMENT』期の、ロックフェスにも対応可能なバンドとしてのダイナミズム――そういった「鳴らしたかった」要素がすべて集約され、解き放たれたような感覚があった。好き嫌いは別として、少しずつだが成長し、進歩し、他人を巻き込めるような大きなグルーヴを生み出しているのは間違いない。「こんな時代だからこそ、少しでも前向きに」……池永が各所のインタビューやラジオでコメントしていたそんな言葉の裏側には、時代や環境、境遇のめまぐるしい変化の中にあって、理想の音楽を追い求め続けてきた自信が感じられる。

ライブは、「After dance」サイドを中心とした前半、「Before sunrise」サイドを中心とした後半となっていたが、「波feat.ハチスノイト」が早い段階で披露されるなど(流されたハチスノイトの映像は、ロカペニスによる撮りおろし!)、構成にも一工夫加えられていた。映像面で出色だったのは、車窓からの景色を多用しつつ、リアレンジされた「NOTHING」(このバージョンが素晴らしい出来だった!)で宇宙に飛び出すような表現に移行したところ。「銀河鉄道の夜」、もしくは「E.T.」のような、真夜中に空へとフワリと舞い上がる心地よさに溢れており、ロマンチックな情景だった。

個人的にハイライトといってよいのが、あら恋史上もっともDUBなナンバー「view」。ライブでの成長度合いが半端無くて感激した。今回のライブでも、昔のような爆発的なロー・サウンドはなく、鍵盤ハーモニカをはっきりと立たせた音響となっていたが、その中でこれだけのDUBを演奏できるのは今のバンドの強みだろう。

和合亮一のポエトリーリーディングは熱くエモーショナルで、セッションで行われた即興詩(東京の地名を挟んでいったのがキャッチーで、ポップだった)もバッチリハマっていたし、「焦点」での叩きつけるような強靭な言葉と、池永の寄り添うような鍵盤ハーモニカとの対比も心震わせた。「gone」も今回用にアレンジが変更されており、およそ10分程度の尺に。そこに加わった曽我部恵一による包容力の高い歌声は、やはり何物にも代えがたい。ラストの「聞かせてよ」のリフレインはいつまでも聴いていたくなるし、まだまだ胸に響いている。

本編ラストの長尺ナンバー「月下」では、震災に関する映像が主軸として流されていた。ここはある種、観客を突き放した演出であったが、語弊を恐れずにいってしまえば、そこに(あら恋としての)思想的なものはほとんどないだろう。なぜなら、あの場で映された映像は、この世界で事実として起きたことだからだ。そしてあれから5年を経てもやり場のない感情が去来したことを、僕はただ再確認した。

ダブルアンコール、ラストはオケなしの「ラセン」が披露された。存分にラフな演奏であったが、その縛られない演奏の気持ちよさが全面に出ている肉体的なパフォーマンスで、華やかに終演を迎えた。時間にして150分と長丁場だったが、疲労感よりも「いやー、いいもの観たなぁ」という感想がまず出てくる充実感に溢れたものだった。

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初のアナログとなる「gone/風花」もリリースされたあら恋。今年こそ、フェスで観たいと思わせるパフォーマンスだった。やっぱりGOTOさん、カオルさんの一世代若いセンスが入ったのは大きくて、単なる再生産に終わらないフレッシュさが刻まれている。もっと幅広い人に響いてほしいし、響く可能性のあるダンスミュージックを今、彼らは懸命に鳴らしている。

そしてライブでしか見られない、池永さんの咆哮。

轟音とセンチメンタリズムの狭間で響くあの声のカタルシスは、まだまだ多くの人に刺さるはずだから。

●写真はアルバム完成直前の2015年末、中野にて

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