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残像の夜にVol.4 あら恋&MOROHA

あらかじめ決められた恋人たちへ主催企画、「残像の夜に」第4弾となるライブイベントが、ホームタウンとも言える新代田FEVERで。あら恋にとっては、ユニット始動20周年目となった2017年。4月に全曲ニュー・レコーディングを敢行した記念ベストアルバム『20TH BEST』をリリースし、そしてこの日のFEVERが今年の初主催ライブとなった。

その対バン相手として今回招聘されたのが、ギター・UKとラップ・AFROによるデュオ「MOROHA」。昨年も熊谷のライブハウスやフェス「BAYCAMP」で共演し、そのジャンルや方向性は違えど通じ合うものを感じていた2組。2週間後の大阪ではMOROHA主催のイベントにあら恋が出演するなど、関係性が深まる中でのイベントになった。

結果的には、熱のこもった言葉を駆使して場を掌握していくMOROHAと、言葉を用いずに音のダイナミクスで勝負するあら恋という対比が明確に示され、両者の持ち味が最大限に活きる対バンになったと言えるだろう。

韻に縛られすぎない、攻撃的ポエトリー・リーディングと言って良いようなAFROのラップ、狂いなくビートを刻み絶大な安定感を生み出すUKのギター。変則的な編成だがそれを感じさせない説得力がまずある。平易な、身近な言葉をかき集めてシンプルに綴っていくAFROのラップは、その声のトーンも含めてときにユーモラスに展開し、サウンドのタイトさゆえに全編を覆う切迫感や緊張感の中にもエンターテインメント性が見受けられるものとなっていた。正しいのか、間違いなのか――という判断ではなく、何より本心に“正直”であることに重きを置いたメッセージと振る舞い。加えて、自信と自虐とその間の感情を一曲の中で幾度も往来する姿は不器用だが逞しい。ひとつ間違えて自己啓発的になってしまったらそれは辛いところだが、そうならない絶妙なポジティブさを残してくれるのは魅力のひとつだ。FEVERはステージと客席の段差が少ししかないハコだが、オーディエンスとどこまでもフラットであらんとするMOROHAの視線には適していたような気がする。

 さて、誰もが息をのんでMOROHAのライブを見守ったわけだが、後攻のあら恋はというと、『20TH BEST』でのトライアルをライブでようやく昇華したような75分だった(アンコール込み)。「Back」→「前日」という、20周年フェスセット的オープニングから、「武曲」の主題歌ともなった「Fly」を惜しげもなく繋げる潔さ。しかしながら、この日のハイライトに置きたいのは、「迷いの灯」からMC明けに披露された「ハウル風」→「トカレフ」→「gone」の流れだ。

「ハウル風」は、バンマス・池永正二がはじめて鍵盤ハーモニカを使用した、あら恋、はじまりの瞬間が刻まれた楽曲だ。ソロとして長い間パフォーマンスしてきたそのサウンドを、バンドメンバーと共にプログレッシブなものへと大幅に進化させていて、それだけで20年の凄みが伝わるものだった。2008年以降のバンドサウンド移行期に必ず演奏されていた「トカレフ」も、ヘビィなだけではない別次元のシネマティックな手触りを残していたし、「gone」の歌メロ再現バージョンも見事だった。この3曲は『20TH BEST』を踏まえた仕様であり、今後も演奏されることを熱望したい内容だった。

「res」→「ラセン」が代名詞的な強靭さを備えていたのはもはや当然ですらあるが、アンコールの長尺ナンバー「翌日」(もしかするとGOTO加入後は初披露かも)も、感傷的にならざるを得ない刹那的で素晴らしい演奏だった。途中、ゲストとしてラップを披露したAFROの「言葉にしづらいことは無理に言葉にしなくて良い」というキーワードも、あら恋というバンドを端的に示すものだったと言える。

確かにこの20年間、あら恋は言葉にできない、しづらいような曖昧な感情を曲に織り込んで伝えてきた。だけど今となっては、ただ単に伝えるだけの一方通行のものでもなくなっている感もある。サウンドを聴いたオーディエンスが抱くどのような想いも――それが怒りであれ悲しみであれ――受け止めるだけの包容力が生じている。演奏は20年目にしてあら恋史上もっともハードなスタイルになっているが、その熱があくまであたたかく感じられるのは、そうした相互方向のコミュニケーションを望む池永の姿勢からであろう。そしてその姿勢を、クリテツ、劔という大阪ソロ時代を知るメンバーが支え、オータケコーハン、GOTO、ベントラーカオルという若手メンバーが発展させている。

今後は映画『武曲』との対バンイベント「Mixing Vol.2」@WWWが控えている。そして10月には台湾公演も。ソロ~バンド時代も含めて20年という歴史を踏まえた上でそれを更新せんとするあら恋であるが、その本領がついに発揮され、未来がまた眩しく見えた夜だった。

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↑セットリスト(ストレンジギタリスト・コーハン先生と共に/クリテツ氏から拝借)



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