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僕の気になる彼女は(タクミVer.)【短編小説】1000文字

夏休みが始まった。と言っても最初は補講。高校生っぽい。
去年までは暑い体育館でシャトルを追いかけていた。
よくやってたよ。空調の効かない学校の体育館で練習だなんて。
この学校も体育館に空調はないはずだ。
あの子は今日もシャトルを追いかけてるんだろーな。

午前で補講は終わる。午後からはバイトのない奴らでカラオケ行ったり。
俺は結局夏休みにバイトを入れることができなかった。
だからほとんどカラオケに行ってる。
「補講もあと2日じゃん。タクミって補講終わったら夏休みどうするの?」
今日のカラオケメンバーは2人。俺と佐藤。
部屋が快適だから、なんだかあの子に申し訳なくなる。
「んー、今からでもバイト探すかー、ぼーっとする。」
「なにそれー。じゃあ、あたしのバイト先で夏休みだけ働けるか聞いてみよっか?」
佐藤はいい奴だ。高校に入ってから初めて仲良くなった女子。赤点補習仲間だ。
正直に言おう。柔らかそうな栗色の髪に触ってみたいと思ったこともある。
「バイト先ってパン屋じゃん。無理、パンの名前なんて覚えらんねーし。暇だったら前の店長に頼んでシフト入れてもらうよ。」

バイトは夏休み前に辞めた。部活に入ろうかと思ったからだ。
結局入ってないけど。
あの子と一緒なら別に1番になれなくても、もう一度やれそうな気がしたんだ。

去年の全国大会は1回戦敗退だった。2ゲーム先取で1ゲームも取れなかった。
得点なんて覚えていない。初めての全国大会で緊張してたからだって周りは言ってたけど、違う。
俺もだけど相手も有名な選手ってわけでもなかった。ここまでのレベルだったんだ。
ここに来てしまったヤツが落ちずに上り続けるなんて、努力とか才能とか、そういうもんじゃないんだって。
俺には続ける何かが足りなくて、あっさりと辞める方を選んだ。

1度、あの子が練習している姿を見たら一緒にやりたいって思ったんだよ。いや、こっそりあと2度ぐらいは体育館に行った。
フォームがキレイとか、スマッシュの威力がハンパないとかじゃなくて、楽しそうだなって。

「タクミさぁ、部活入ろうとしてる?」
飲んでいたメロンソーダの炭酸が鼻に入った。
向かいにいた佐藤が隣に座り、制服のスカートの裾を直した。
俺の顔を覗き込むように首を傾けると、耳にかけていた栗色の髪がふわりと落ちた。どこを見たらいいのか探すように、丸っこい目がキョロキョロしている。
この柔らかそうな髪を撫でたら楽になれるのだろうか。

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