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僕の気になる彼女は(Final Ver.)【短編小説】2000文字

お盆になるとクラゲが出るから海に入れない、らしい。
だからお盆ぐらいからプールは混む、らしい。
こんなことネットで調べればすぐにガセかどうかわかるけど、興味がないから調べるようなことはしない。
そうっすか、と返事をしてプールの監視員のバイトに戻るが、つい彼女を探してしまう。
夏休み前にスマホの連絡先を交換した。
メッセージを受信したのは交換したその日とプールに来る予定を教えてくれた日、プールに来た日の三回だけ。僕からは送ることができなかった。
結局その程度だったんだ。
「また行くね。」のメッセージを鵜吞みにして彼女を探してしまう僕には罪悪感がある。

出会った初日に家に誘う・・・今思えば非常識なことをした。
共通の話題で盛り上がり、偶然学校が一緒ということでさらに仲良くなり、会って三回目で僕から告白した。夏のせいだ。彼女佐藤さんのせいだ。
彼女佐藤さんといると楽しい。会話のキャッチボールが永遠に続くんじゃないかと思えた。
この少し浮ついた気持ちを見透かすやつが現れて、また誰かにとられるんじゃないかと思うと、つい。
「『友達じゃなくて彼氏がいいんだけど。』か。」
僕は必要をことしか調べない。


シャトルが空気を切る音と共に相手コートに突き刺さる。
一年生同士のラケットを使った練習ではもうあの頃の感覚が戻ってきている。
が、先輩には通用しない。
フェイントで決めるよりスマッシュで決めた方がキモチイイから好きなのだが、読まれて拾われたり、きれいに打たせてくれない。
これが高校生か!
ランニングやダッシュはまだなんとかついて行くのが精いっぱい。
遊んでいた間のブランクはこの夏休みで埋まるかなー。

俺の手が佐藤の柔らかそうな髪を撫でようとしたとき、
「やりなよ、部活。バドミントン、いいじゃん!」
髪の毛がしゃべったかと思った。
あの子が真剣に、嬉しそうに、楽しそうに練習する姿を見て、またバドミントンがやりたい気持ちになったのは確かだ。
佐藤があと一押しの言葉をくれた。部活に入っていないいつメンから抜けることに少し残念な気持ちがあったし。
「ありがとー!」
残念な気持ちを打ち消すように佐藤の髪をくしゃくしゃにしたら怒られちまったよ。


僕は振られたことになっているらしい。木村から聞いたわけじゃない。
聞こえてるよ。イケメンだって言われていることも知ってる。
津田さんがイケメンの誘いを断っていたらしいってみんなが言ってることも。

五限目が終わって部活の前に津田さんのところに行った。
階段を下りて家に帰ったり、部活に行ったりする人たちと逆行し、もう教室にいないかもしれないと思いつつ向かう。
教室から出て行く津田さんを追いかけるように声を出した。
「今日!何時のバス?」
津田さんが振り向いた。僕の方に歩いてくる。
「今日の部活は市民体育館でやるの。どうしたの?」
「連絡先!知りたいんだけど。」
「あ・・・また今度バスで一緒になったら、ね。ほら、部活遅れちゃうし。」
津田さんが前を向いて走って行った。これで終わりだろう。

補講期間中は散々だった。
授業に身が入らないし、サッカーの調子も悪い。
合宿にも影響した。スタメンから外れた。
「本当に振られた?」
木村はストレートに聞いてくる。こういう時は察してくれ。
「連絡先、すぐ教えてくれなかったんだよ・・・」
普段、しゃべる方ではないと自分でも思っているけど、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。合宿の夜という特別な感じがそれを手伝う。
「なんだそれ?振られてないじゃん。急いでただけかもしれないじゃん。それか、スマホ持ってないとか?は、ないか。」
あれから一緒のバスにはなっていない。僕は自主練をせずにすぐ帰るようになったからだ。
「好きならもうちょいがんばってみればいいんじゃね?イズミのがんばりはそれでおしまいか?」
がんばる・・・。
バスで席を譲る自然な姿に、いいな、と思った。
それから見かける度に気になって、姿を探すようになって、話してみたくなった。
自主練をしても、そつなくこなす林にはかなわない。
それでも自主練するのはサッカーがうまくなりたいから。
次に津田さんに会えたら、また聞いてみてもいいだろうか。がんばってみてもいいだろうか。
「諦めるの早いだろ。俺なんてなー。」


二学期が始まり、僕はバス通学から自転車通学に戻った。きっともう彼女と話すことはないだろう。
教室に入ると僕より黒くなった木村が寄ってきた。
「瀬戸、久しぶり!何?海焼け?」
「バイト焼けだよ。プールの監視員焼け。」
海は行っていない。彼女佐藤さんと付き合ったのはお盆過ぎだった。お盆前でもDVDばっかり見てたけど。
「イズミ、津田さんにちゃんと告ったぞ。」

高校生になって彼女佐藤さんはできた。
気になっていた彼女じゃないけれど、僕を惑わせるような彼女じゃないけれど。
一緒に笑いあって、居心地のいい彼女佐藤さんだ。ちゃんと大事にするんだ。
ドラマやマンガや音楽にあるような二人じゃないけど、いいよね。

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