私が気になる彼は(マネージャーVer.)【短編小説】1000文字

グラウンドのカラフルなマーカーコーンを集めていると、バーべキューの網で焼かれるウインナーの気持ちになる。
15時なのに日差しは容赦ない。
今日の昼食は合宿最終日ということで保護者会がバーベキューを開催してくれた。
部員たちは午後から紅白戦があるなんて関係なしに、お腹いっぱい食べていたみたいだった。男の子ってすごい。
ちょうど集め終えると部員たちがグラウンドに入ってきた。ざくざくとスパイクが土を踏みしめる音が遠ざかっていく。
彼のスパイクの音が隣でぎゅっぎゅと聞こえ続けている。今回もベンチスタートなんだ。

合宿1日目の紅白戦、意外にも髙橋くんはベンチスタートだった。
同じ1年生の木村くんがグラウンドで先輩たちと円陣を組んでいる。
考えてしまうのは補講期間中に聞いた噂話だ。
振られたらしい。
相手は1組の女の子で名前も顔も知らなかった。
いいなぁ。マネージャーにも気軽に話しかけてくれることなんてないのに。
髙橋くんに想われて、告白されて。
でも、隣の席のマキちゃんによると告白が本当かどうかわからないらしい。

この合宿期間中に噂のことを本人に聞いてみようと思ってた。
本当だったら話を聞いてあげたい。あわよくば。
嘘だったら・・・近づいてみたい。この機会に。
そんなことを考えていたけど、いざ始まると忙しくって髙橋くんとの接点は普段の部活よりもなかった。
マネージャーは泊まりじゃなくて通いだし、いつもの倍の洗濯やドリンク作り、それに食事の準備もある。

隣にいた髙橋くんとグラウンドにいた木村くんが交代した。
「木村くん、凄かったよ。アシスト1点。シュート2本。」
「あのアシストはたまたま。ほら、イズミが入った方が林が攻めれるんだよねー。俺だったら林はFWにする。」
木村くんに聞いてみようか。
「髙橋くん、最初調子悪そうだったけど持ち直した?」
「ん?あ、俺が先発でイズミがベンチだから?」
「いやいや、そういうんじゃなくって・・・いや、そうかも。」
「正直かよっ。あーあれ?イズミは今回で学習して、彼女作ればいいんだって。って、そんな悪くはなさそうだけどな。」
「やっぱり、振られたの?」
遠くでホイッスルの音が鳴る。ごめん、私の心が喜んでしまう。
「おー、最後はイズミ決めたじゃん。ん?マネはだめだよ。」

「?」
整列のため、ベンチにいた部員たちがグラウンドに向かう。ざっざっざっとスパイクの音が駆けていく。
木村くんが振り返って指を指した。
「俺の!」
タオルかな?ドリンクかな?ちゃんと自分で管理してよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?