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読書記録

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個人的な読後連想の記録
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記事一覧

読書記録2024(#5〜#9)

#5 『村上春樹全作品1990−2000 ① 短編集Ⅰ』 / 村上春樹 去年から短編小説を意識的に読んでいて、その一環として村上春樹の短編をまとめて読み直している中の一冊。 村上春樹はデビューから同時代をリアルタイムに読むことができている数少ない作家の一人だけに、短編作品の変化も実感を伴って読むことができる。 #6 『文学のレッスン』 / 丸山才一 聞き手の湯川豊氏のインタビューに答える形式の分、他の著書の旧仮名遣いがなくて、読みやすい。 インタビュー形式とはいえ、実質

読書記録2024(#1〜#4)

#1 『いつか必ず死ぬのになぜ君は生きるのか』 / 立花 隆 2021年に亡くなった立花隆の著書からエッセンスを抜き出して、ジャンルごとに再構成したパイロット版、ガイドブックのような本。 著書の8割ぐらいは読んでいるけれど、こうしてまとめてあると、これから立花隆に触れる人には便利に使えるかもしれない。 イマドキの人だと「タイパ」とか言って、この1冊だけで全部読んだ気になってしまうのかもしれないけど。 情報洪水状態の現代社会のキーは何は無くとも教養のはずなんだけどな。リベラル

読書記録(4〜6月)

「25の短編小説」 小説トリッパー編集部・編 「江戸の女」 三田村鳶魚・朝倉治彦編 「A-10奪還チーム出動せよ」 S・L・トンプスン 「それからはスープのことばかり考えて暮らした」 吉田篤弘 「ずばり池波正太郎」 里中哲彦 「青春とは、」 姫野カオルコ 「此の世の果ての殺人」 荒木あかね 「浮世小路の姉妹」 佐伯泰英 「読者に憐れみを—ヴォネガットが教える「書くことについて」」  カート・ヴォネガット、スザンヌ・マッコーネル 「君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい」 浅

読書記録(1〜3月)

今年の第一クォーターに読んだ本を列記してみた。 ささやかに傾向は見られるけれど、それでもやはりめちゃくちゃと言った方が正しいような乱読ぶりである。 この3ヶ月はかなり頑張ってハウツー本とか自己啓発本を読んだ気分でいたのだけれど、結果を見ると読んでないも同然だった。読みつけないからしんどく感じていたのかもしれない。 短編集も意図的に量を読んでいたが、こちらは結果にちゃんと現れている。短編は分析的に読みもしたから、こちらもちょっと労力が必要だった。 その反動か、再読したものが結構

読書記録 『人生激場』 三浦しをん

三浦しをんのエッセイは、まともに向き合ってはいけないというのが僕の基本的なスタンス。 ながら見するバラエティ番組ぐらいのウエイトで読むくらいでちょうどいい。昔なら「読むものがないから電話帳を読む」と言ったものだが、それぐらいの感じは割合にちょうどいいんじゃないかと。「満腹になればこの際味はどうでもいい」というような時だと、余計なことを考える間も無く、噛まずに飲み込んでしまえていいんじゃないかと思っている。 このエッセイ集も三浦しをんならではの、肩の力が抜けてるというより、脱臼

読書記録2022 『光圀伝』 冲方 丁

今から10年前の2012年発表の作品。 前作の『天地明察』を読んだ時に、著者の冲方丁の文体をちょっとくどく感じたところがあって、読まず嫌いになったままだった。 本作も導入からしばらくはちょっとくどく感じたけれど、途中からは読む手が止まらなくなって一気に読み切ってしまった。 本作はタイトルの通り水戸黄門で知られる徳川光圀が主人公。 水戸光圀と坂本龍馬はドラマや小説先行で、日本でいちばん虚像が広がっている人たちだと思うのだけれど、本作の光圀はあの「水戸黄門」とはずいぶん違う。

読書記録2022 『同志少女よ、敵を撃て』 逢坂冬馬

購入してから1年。 読む順番が来るより早く、ロシアのウクライナ侵攻が始まってしまって、読むタイミングを逃していた。 デビュー作にしてアガサ・クリスティー賞を受賞、直木賞の候補に挙がり、本屋大賞も受賞というだけでも、本作が尋常ならざる作品だと想像がつく。 物語は二次大戦の独ソ戦。主人公の少女狙撃兵セラフィマと、彼女の属する女性狙撃部隊の行動を通じてドイツのソ連侵攻、激戦のスターリングラード攻防や、二次大戦の推移が語られる。 同時に、主人公セラフィマの成長(否応無く少女が狙撃兵

読書記録2022 『銀河英雄伝説』 田中芳樹(再通読) 〜 理想の政治形態とは何なのだろう

 「仕事の場では政治と野球の話はしてはいけない」というのは昔からまことしやかに言われていることなわけだが、「ノンポリは最もポリティカルだ」というジョー・ストラマーの言葉を胸に成長してきた僕としては政治に満足したことなど一度もなくて、不満不愉快が臨界点に近づくと『銀河英雄伝説』を読み直すのが習慣になってしまっている。  発表されてすでに40年にもなるというのに、一度読み始めると相変わらず途中でやめられないカッパえびせん状態で、今回も創元推理文庫の全10冊を3日ほどで読み通してし

読書記録2022 最近読んだ本たち

『タイトル読本』 高橋輝次・編著 とにかくネーミングセンス、キャッチコピー力に乏しいもので、何かの参考になればと手にとってみたのだが、多くの作家たちもそうそう簡単にタイトルをつけられているわけじゃないと判って、解決の糸口はつかめないまま、妙な安心感だけが残った。  堀口大學から三谷幸喜まで、誰もが知っている人たちがタイトル付けにまつわるエッセイを書いてきた事実も、この本で知ったわけで、それだけ著作にタイトルをつけるというのは誰にとってもなかなかの難題なのだなと。  個人的には

読書記録2022 『黒牢城』 米澤穂信(若干ネタバレあり)

 ちょっと前に遅ればせながら読んだ直木賞W受賞の作品。  今村翔吾の『塞王の楯』は読むのが楽しみで、積ん読タワーの下段にあったのを我慢して我慢して、満を持して一気に読んだのだけれど、本作は期待と懐疑とが半々だった。そしてその予感は残念ながら後者の方により大きく傾いていた。  時代小説や歴史小説作家が書くミステリーと、ミステリー作家が歴史小説を書くことにどれだけの違いがあるのか、あるいはそんな差などないのか、作品そのもの以外にも、そのあたりに興味があった。  読む前には松本清

読書記録2022 (簡略感想羅列版)

 このところ読みっぱなしだったので、記録してあるうちから印象に残ってるものをいくつかかいつまんで。 *        *        * 『真田騒動』 池波正太郎 真田太平記を通して再読した勢いで、こちらも再読。 短編をいくつも書き上げていって、結果としてそれが長編の習作になるのはレイモンド・チャンドラーも同じで、作風も何も全然違うのに、そうした共通点が面白かった(内容はもちろん)。 *        *        * 『幸村を討て』 今村翔吾  真田幸村つなが

読書記録2022 『真田太平記』 池波正太郎

 年初から四半世紀ぶりにゆっくりと再読を進めてきた真田太平記も、ついに全12巻を読み終えてしまった。  言うまでもなく読書にとって速度は必ずしも重要な要素ではない。  とはいえ「先が読みたい」という欲求を鷲掴みにされてしまうような小説では、ページをめくっていることすら忘れてしまうほど、読む速度は上がって行く。  池波正太郎さんの作品、とりわけ真田太平記にはそういう「魔力」があって、疲れることもなくひたすら物語の先へ先へと向かってしまう。  こんなシロモノを、よくも2ヶ月もの時

読書記録2022 『小説家になって億を稼ごう』 松岡圭祐

 小説家という職業は稼げる職業なのか否か。  出版不況と言われて久しく、大学生の1ヶ月間の読書量は長く右肩下がりが続いている中で「億を稼ごう」と言われてもにわかには信じがたいという人が大多数だと思う。  僕が風変わりなのか、タイトルを見ただけで「まあやりようによっては1億ぐらいなら届くかもしれないよな」と、特に違和感もなく納得していた。  まず重要なのが、本書が億越え作家になるための小説作法ではないということだ。大きく3つに分かれる内容の1つのブロックを使って小説の書き方に

読書記録2022 「スーパー猫の日」編

 猫好きである。  小説家になりたいと思う気持ちの半分ぐらいは「猫を飼えるから」という願望が占めていると言っても間違いではない。  過去には家の庭に野良が居着いたこともあったのだけれど(この話を語ろうとすると、それはすなわち母への恨み言と繰り言を羅列することになるので割愛するが)、「うちで猫を飼ってます」と胸を張って言えるほどの経験がない。  とはいえ、何から何まで猫ファーストというような —— 猫の置物を飾るとか、猫がデザインされているものをとりあえず選ぶというような ——