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にんげんだもの

話の終着点が見えてきたので閑話休題、ドラマの制作現場の話に戻ります。

東京にいると芸能人に遭遇することもそれほど珍しいことではないし、店をやっていると驚くような人が来店されることも割とあったりする。
こうして芸能人と会ったり遭遇すると好感を抱く人がおられる一方で、中にはその逆の人もおられる。
ぼくも会った人の中には、わずかではあるけれど ”うわっ、めっちゃ感じ悪いな” といった印象を受けた人もおられた(いずれも芸人さん)。
だけど、いまではこれも仕方ないこと、特に売れている人なら尚更だと思うようになった。

ドラマの制作現場の印象を「キラキラした部分は皆無」「疲弊漂うスタジオの」と書いてきたけれど、疲弊しているように見えたのはスタッフさんだけでなく俳優さんたちも同じだった。

2018年、連ドラのときのこと。
ぼくには佐藤健さんが疲れているように見え、早朝からこんな遅くまで撮影されているとそりゃ疲れるだろうな、と思っていたけれど、佐藤さんはこの時期、義母むす(義母と娘のブルース)の撮影をしながら並行して「半分、青い。」で麦田とはまったく違う人格を演じられていた。
どちらも連ドラで、これだけでも驚きだけど更に映画「億男」の撮影もこのときにされている。 
義母むすだけでも大変なのに連ドラ2本に海外ロケもある映画が1本、撮影期間が完全に被るこの3つの作品へ出演されているのは、にわかには信じ難かった。

また、いずれも本編の撮影だけでなく合間には番宣もあればCM撮影などもあるだろうことを想像すれば、一般人のぼくには正気の沙汰とは思えないスケジュールで、疲れて見えたのも首肯ける。
それでも「本番!」の声がかかるとスイッチが入ったようにあの麦田へと人格が変わる(演じる)のだから、愛すべきおバカキャラを演じられていてもぼくには俳優としての凄みの方を感じた。

2022年のスペシャルで参加した名古屋ロケもなかなかハードなスケジュールだった。
白百合製パンの谷崎工場長(小林隆さん)が生地の分割をしているところへ岩城(竹野内豊さん)がやってきて、いかにも狡猾そうな雰囲気を漂わせながら「目の下に隈の一つでも作って欲しいんです。あ、ちょっと包帯なんかもしてきてもらえるとありがたいですね。やけどなんかした体で」というシーンがある。
この日の最終カットで、周囲にいたスタッフさんたちの中には床にへたり込み、うとうとと眠りかけている人もいた。
すぐ横で折りたたみ椅子に腰掛けられ本番を待つ竹野内さんは、早朝からの現場入りだったため、やはり眠ってしまいそうな様子。
ところが撮影がはじまると別人だった。

結局放送では抑え気味に演技されたものが使われたけれど、実はこのとき「オーバーなくらいで」「高いテンションで」と事前に監督から竹野内さんへの要望があった。
そのときの演技があまりにもテンションが高く面白くて、監督はじめ現場にいたスタッフさんたちからも思わず笑い声がもれるほどだった。
つい直前まで疲れ切ってすぐにでも眠りそうになっていた人とは、とても思えない演技だった。

一般人のぼくでさえ自分が現場をやりながら店が増えはじめたころは、毎日頭がパンクしそうで仕事が終わるころには、「もう誰も話しかけないで」という気持ちにもなった。
想像でしかないけれど、仕事関係者だけでも多くの方から四六時中話しかけられているであろう芸能人がプライベートで話しかけて欲しくないというのも至極当然の感情だと思う。

東京の人やいまどきの若い人は、そういった分別のある人が多いとは思うけれど、もし遭遇することがあったとしてもそっとしておいてあげて欲しいな、と思う。
うっかり声をかけてしまい、仮にそのときの愛想が悪いと感じたとしても許してあげて欲しい。
有名税なんてものはないし、芸能人や著名人だって、にんげんだもの。

つづく

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