2013年2月8日「雑文?問答?独白」
「やりたくてやりたくてたまらないね」
何を?
「窓をのぞくことさ。窓から外をのぞきたくてのぞきたくてたまらないんだ」
窓をのぞいて何を見たい?
「別に。何でもいいから窓をのぞきたいだけさ。」
窓のむこうには安月給のピエロとか、珍しくもない枯れたポプラの木しかないよ。
「それでもいいのさ。なんでもいいからとにかく僕はサッシに手をかけて、窓から顔を突き出して外の様子を眺めてみたいんだ。」
馬鹿な人だね。そんなことしたってどうなるものでもないのにね。
「わかっているけれどやめられないんだ。」
その先にあるのは身の破滅だよ。君はね、中毒性のある毒をもつ葉っぱを紙で巻いて火をつけてすぱすぱやっているようなものさ。
「だったらなんなんだ。それがどうしたんだ。大体君は誰なんだ。なんで僕の体を心配してくれるんだ。」
僕は君の体を心配する奴だよ。
「だからそれは何でなんだ?」
辞書にそう書いてあるからさ。
「辞書なんてどこにあるんだ?」
中州の本屋だよ。8階建てのビルの4階の辞書売り場で売ってる緑の装丁のぶあついやつさ。
「そうかい。」
今度君も一緒に本屋にいかないかい?あそこは喫茶店も食堂も併設されているからね。1日つぶすことができるぜ。
「考えておくよ。」
実は君の住んでいる街からは地下鉄で一本なんだ。気が向いたらいつでも誘ってくれ。
「わかった。その話はもういい。話をもとにもどそう。僕は窓をのぞきたいんだ。」
全く、せっかく僕が話をそらしてあげたというのにまた蒸し返すんだね。
「もちろん蒸し返すよ。これは僕にとって重要問題だからね。」
だからといって窓をのぞかなくても死んでしまうというわけではあるまい。
「いや、死ぬ。のぞかなきゃしんでしまう」
そんなこというなよ。聞いているのが僕だからよかったものの、それを外で言ったら大変なことになっていたところだったぜ。
「だってやばいよ。本当に僕は…」
本当だろうがなんだろうが死にたいなんて外では軽々しく口にしちゃだめだ。別にこれは啓発めいたことをいってるんじゃない。そう口にすることで、君はある具体的な損失をこうむることになる羽目に陥るんだ。そうなることを僕は経験上知っているんだ。だから僕は君に忠告するんだよ。
「具体的とはたとえば?」
仕事を首になる。
「僕は無職だから関係ないね。」
それだけではない。他にも色々とあるよ。自宅がいつのまにか他人名義になる。車が盗難にあう。生活保護が打ち切られる。その他もろもろさ。簡単には挙げられないくらいたくさんさ。
「それはちょっと嫌かもね。」
嫌だろ?だから駄目さ。君は軽々しくそんなことを口にしてはいけない。それを脅しにして何かを成し遂げようとしてはいけないのさ。どうしてもそれをやりたいなら君は芸術家か芸人にならないといけない。そしてそれらになるために必要なのはほんのちょっとの才能とあとは絶え間ない努力さ。
「話が難しくなってきたね。どうでもいいよ。いいからはやくあのカーテンをひいてくれよ!僕は外を見たいんだ…」
いけないよ。駄目だよ…許さないよ…
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