2013年8月30日の日記


 今日という一日は無味乾燥だった。明暦の大火で燃やし尽くされた後の江戸、あるいは大空襲の後の東京のように焼け野原だった。あちこちに黒こげになった梁や棟木が転がっていって、それらをとりのけたら鼻をもぎとってしまった方がまだ楽だと思えるほどの異臭を発するぼろぼろの焼死体が豊作のじゃがいものようにごろごろと転がっているのだ。発狂できる者の方がまだ幸せといえるような地獄。そんな焼け野原のような一日であった。ここでアウステルリッツの三帝会戦でも起きたのではないか?と思えるほどに今日という一日は荒廃してしまっていたのだ。


 なぜ荒廃してしまったのか?あれこれと考えてみるけれど、理由は見つからない。探し物を首尾よく見つけたという経験が僕には全くない。だから、自分の根幹に関わる出来事の原因すら、ある種の儀式という複雑な、それこそその年の収入の報告のように複雑な手続きを経なければ突き止めることができないのだ。


 荒廃。荒廃には月の光がよく似合う、と言ったのは誰だったろう?それともそんなことを言った人間はいなかっただろうか?まあいいどちらにしろくずれた壁の隙間からぺんぺん草が生える。草の先には涼しげな声で鳴く名前も知らない虫が羽を休めている。そんな一面の光景をやさしく冷たく照らす月。なんと詩的かつ絵画的な光景なのだろう!全く荒廃には月光が似合うではないか…


 いや、そんな繰言はどうでもいい。日記を書かなくてはならない。そう、私は日記を書こうとしているのだ。でも書けないのだ。なぜなら今日という日ほど空白という2つの忌まわしい言葉が似合う1日はなかったからだ…

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 朝は3時ごろに起きた。…そうだ、今日はそんなに早起きをしたのだった。一度起きてしまうともう再び寝付くことはできなかった。一体今までどれほど多くの人間がこんな風に気まずい夜の時間をすごしたことだろう?翌日に世界大戦を控えている兵士は、こんな風な眠れぬ夜をすごしたのだろうか?それとも翌日に控えているイベントがそれほどまでに絶望的であると逆にあきらめの精神でぐっすりと眠ることができてしまうものなのだろうか?どちらにせよ僕には何もいえない。僕は戦争なんて翌日には控えていなかった。それどころか浄水場の水質調査をするという予定も、ラーメンのスープの仕込みをする予定も、ふらりと来店した関西出身のばあさんの髪を紫色に染める予定も控えていなかった。僕には何もなかった。僕の心にはただ空白だけがあった。エンキドゥを失って途方にくれてメソポタミアの荒野にたたずんだギルガメッシュのように空白だった。虚無だったのだ。空だった。


 しかし空はすぐさまに空即是色の考えを呼び覚ます。つまり何も予定が存在しないこということは七色の予定、数多くの幻想の予定を抱えていたのも同じである。

…いや、こんな考えもむなしい。…こういう脚色はできるだけはぶいて本当のことだけ書くことにつとめよう。

 私は4時ごろからパソコンをやりはじめた。何を見たか?くだらないサイトばかり巡回していたように思う。そうしている内に徐々に日の出が上り始めた。燃えるように真っ赤な朝日だった。まるで世界が、この街が今日で終わってしまうかのように赤い太陽であった。少し時間がたつとその赤い色は黄金の輝きに変わった。今日ほど神秘的な朝焼けはなかなかない。アルゴー船に乗って金色の羊を求めるたびに出かけた例の一団も、出発前にはこんな美しい朝日に祝福されたのだろうか?そんなこと
を…その時思ったわけではないのだが。


 コーヒーを飲むと一時的な幸福感に浸ることができた。しかし幸せは長くは続かない。すぐにまた霧靄のごとき幻想の天使や悪魔たちの接待を受ける羽目になるのだ。彼らはあまりにも劇的な世界大戦をくりひろげるものだから、すっかり私の思考力は磨耗してしまうのである。

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 描写を急ごう。午前はパソコンをやり、最終的にはオナニーまでした。昼食にアジフライと納豆ご飯を食べ、その後ちょっと昼寝をした。じわじわと熱をましていく太陽の光に無理やり起こされ、私は仕方なくランニングまで従兄ポンスを読んだ。あわれなポンスも最後の最後では愛する友にそのコレクションを遺贈することに成功することができると思ったのだがあれよあれよというまに憎き弁護士たちの罠にかかってそのささやかな最後の願いもかなわなかった。私は夢中になって一気に読んでしまった。悔しさともむなしさともとれるなんともいえない気持ちが私の心を満たした。不快とさえ言ってもよかった。しかしその不快さは、決してこの作品を名作と呼び、褒め称えようとする気持ちを妨げたりはしない。そう、それだけ読者を引き込み、何がしかの感情を与える力を持っているということの証明なのだ!この小説が!この不快さは!


 気づくともう18時すぎで風呂も入っていたので私は風呂にいくことにした。ランニングは明日だ…


 鳥の炊き込みご飯を食べながらドラえもんとクレヨンしんちゃんを見た。今日の炊き込みご飯は味がよく染みていてうまかった。使った鳥がよかったのかもしれない。


 その後パソコンをやって色々なサイトを見て遊んでいるうちにもう一日の終わりである。今日という一日が有意義なものであったかそうでないかは、後世の人々の判断にまかせることにしようじゃないか。私はもうちょっとネットで遊んでから眠ることにする…

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